|
作者のエドモンド・ハミルトンは1904年に生まれ、22歳で作家デビュー、1977年亡くなるまで「スペースオペラ」を中心とする多数のSF作品を発表しました。
創作活動の中期は、初期の素朴なスペースオペラが全盛の時代で、ハミルトンのキャプテン・フューチャーシリーズは、スミスのレンズマンシリーズ、スカイラークシリーズ、バローズの火星シリーズなどと共に、この時代を代表する作品と言えます。
この初期のスペースオペラの特徴は、「正義は必ず勝つ」という絶対原則のもとに、
(1)主人公はハンサムで頭脳明晰、運動能力抜群、性格良し、心正しく、誰からも
好かれる
(2)スタイルの良い美女が仲間になり、そのうち恋人になる
ただしキスするだけで、絶対に裸にはならない
(3)戦う相手は誰が見ても悪い科学者や宇宙人など
といったところです。
ハミルトンは36歳頃から10年以上にわたって、キャプテン・フューチャーシリーズを書き続けました。このシリーズ、おそらく経済的には成功をもたらしたと思われますが、作家としての評判という面では、その後長期間にわたって、「(くだらない)スペースオペラ作家」という烙印を押される結果になったようです。
1947年に「スター・キング(The Star Kings)」が書かれたのは、おそらくそういう評判に対する反発もあったのではないかと思います。
この作品も、宇宙を舞台にした冒険が描かれているという意味でスペースオペラなのですが、初期のものとはいくつか設定が異なります。先ず、主人公は平凡なサラリーマン、特にハンサムでもなさそうですし、頭脳・身体能力とも特に優れているわけではありません。ストーリーはこんな具合です。
<スター・キング(The Star Kings)>
ある夜、主人公(確かゴードン)がまどろんでいると頭の中に声が聞こえます。話しかけて来るのは、何万年だか未来の銀河帝国の王子。この王子、古代史の研究家でもあり、師と仰ぐ大科学者が発明した、時を超えて精神を連結・交換する装置の助けを借りて主人公に接触してきたのだ。
王子は短期間の精神交換を提案する。自分は古代の生活を実地に研究できるし、主人公は超未来を体験できる、両方にとって良い話ではないかというわけ。主人公は最終的に了承し、その精神は一瞬で未来に転移。大科学者の保護のもとでのんびりと未来の生活を楽しもうとした矢先、敵国の軍隊の襲撃を受け、大科学者は死亡、主人公は助けに来た友軍によって強制的に(王子の)母星に送還される。
こうして、見知らぬ時代でひとりぼっちになってしまった主人公の冒険が始まります。最初は何とかして自分が王子ではないことを分からせようかと思いますが、当然ながら信じてもらえず、おまけに、敵の連合との戦争は始まるは、父である帝王は暗殺されるは、後を継いだ兄も負傷して帝王代理にまつりあげられ、最後には効力さえ判らない最終兵器を自分の責任で作動するはめになります。
主人公はこんな具合で、少なくとも生まれついてのヒーローではありませんが、もう一つのお約束の美女は登場します。王子との政略結婚を承諾した小国の若き女王さまです。主人公とは最終的にプラトニックな恋人になるのですが、運良く戦争に勝利させた主人公は、精神連結・交換装置が置かれている研究所に戻り、本物の王子との約束通り過去の体に返ったのでした。
もう一つ初期のスペースオペラと違うのは、読後に余韻が残ります。王子との約束さえ無視すれば、ヒーローとして残ることができたのに、愛をあきらめて信義を貫いた気高さとか、そういったものが何か心に残ります。
私は、多分この小説を最初は「天界の王」というタイトルのジュブナイル(子供向け翻案小説)で読み、2度目は創元推理文庫で読んだのだと思います。2度読んでも面白かった(それどころか何回か読み返しています)し、読むたびに結末がちょっとアンハッピーなのが不満だった。何とか主人公を未来に転送してやれないものだろうかと思いました。
と思っていたら、なんとハミルトンはその線での続編を書いてくれていました。1970年に発表された、「スター・キングへの帰還(Return to The Stars)」です。
<スター・キングへの帰還(Return to The Stars)>
この作品の冒頭で、主人公は再び王子からの連絡を受けます。王子は(自分自身がやったことになっている)主人公の英雄的な行為を知り、その恩に報いるために肉体を未来に転送する装置を研究し、開発に成功したというのです。
勧められるまま未来にやって来た主人公は、再び銀河系をゆるがす大事件に巻き込まれ、状況に振り回されながらも活躍し、再びヒーローになります。前作で登場した女王(事情は王子から説明されている)も最初は過去から来た男にとまどいますが、再び心から愛す
るようになります。
この小説は前作よりさらに初期のスペースオペラのお約束から脱しており、前作の敵が、完全には心を許せないものの頼りになる味方として再登場しますし、ゴードンと女王のベッドシーンも暗示されています。
ハミルトンのスペースオペラには、この他、後期の作品でスターウルフシリーズというのがあります。私は未読ですが、主人公は元悪役ということで、古いスペースオペラからの脱却がさらに徹底された作品でしょう。
この他、ハミルトンの作品としてどうしても名前を挙げておきたいのが「フォッセンデンの宇宙」です。フォッセンデンという科学者が、実験室サイズの宇宙の創造に成功し、この宇宙に発生するミクロサイズの文明を対象に、さまざまな実験を行うという短編です。これは結末が秀逸です。
|