今月のお薦め本(1983年12月):ピープル(同胞)シリーズ
                  著者:ゼナ・ヘンダースン
                  ハヤカワ文庫SF他より出版


ゼナ・ヘンダースンという方はとっても寡作な作家です。1950年頃30代前半で作家デビューして以来、1983年5月11日になくなるまで、30年以上にわたって創作活動を続けていますが、長編なし、中短編約50作品を残したのみです。

主な作品は、4冊の短編集にまとめられているそうですが、そのうち「ピープル」シリーズと呼ばれている作品群については、ハヤカワ文庫SFから、「果てしなき旅路」「血は異ならず」という2冊が出版されています(現在入手可能かどうかは不明です)。また講談社等の文庫にもいくつかの作品が収められているようです。

ある人に言わせれば、彼女の作品は「超能力と教師と人間愛」の3つのことばで全てを表すことができるそうで(これは悪口ではありません)私も同感。ただし、「超能力」といっても、作品の中では「サイコキネシス」だの「テレポート」だのといったセンスのない無機質な言葉はでてきません。例えば超能力で風を起こすときは「太陽のかけらをつかみとってつむじ風をおこす」のです。

「ピープル」シリーズは、ゼナの代表作品群で、「アララテの山」「されば荒野に泉わきいでて」(このあたり記憶で書いているので不正確かも)といった題名の通り、聖書を本歌取りしたお話群です。ただしお説教くささは一切なし。私のように聖書なんて殆ど知らない人間にも楽しめます。シリーズ全体のあらすじは次の通りです。

時代は(ゼナが創作活動を始めたころの)現在、遡って何十年前か(18世紀末頃?)に太陽系を宇宙人の移民団が通過、この時宇宙船に事故が起き、移民達は着陸船に分乗して近くの惑星(地球)に緊急避難することを決意、幼い子供達を大部分とする一部の人達が、ちりぢりばらばらになりながらも脱出に成功します。また、この時の事故で母船は破壊されてしまいます。シリーズの中では、この辺りの経緯は直接的には語られず、奇跡的に生き残った一部の大人から伝承された昔話として時々ふれられます。

シリーズのお話は、この事故で生き残った孤児がやさしい夫婦に拾われて育てられる話や、成長した子供達が仲間を捜し合い、やがて一人、二人と出会っていく話、村のレベルにまで発展した同胞達の社会で起きる事件など、地球漂着後から、新天地目指しての地球脱出までのさまざまな出来事の記録です。

ゼナのお話って、本当の悪人は一人も出て来ないので、素朴な感動にあふれた心あたたまる話ばかりです。そういうのが嫌いな人は読まない方がいいでしょう。もし興味があるならどれでもいいから1作品読んでみればよろしい。それで面白かったら他の作品全てお気に入りになること間違いなし。なんせ全て同じパターンですから(悪口ではないです)。