今月のお薦め本(1980年6月):J.P.ホーガンのSF

1.作品リスト
ホーガン氏は、1977年に「星を継ぐもの」でデビュー、現在でも創作活動を続けています。従って、「全」作品のリストを掲載することはできませんが、2000年3月発行の文庫本に「現在までの」作品リストが載っていましたので、これを元に一覧表を作ってみました。
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原題
邦題
初出
国内収録文庫
1
Inherit the Stars 星を継ぐもの
1977年
創)
2
The Genesis Machine 創世記機械
1978年
創)
3
The Gentle Giants of Ganymede ガニメデの優しい巨人
1978年
創)1981初版
4
The Two Faces of Tomorrow 未来の二つの顔
1979年
創)
ISBN4-488-66305-2
5
Thrice upon aTime 未来からのホットライン
1980年
創)
6
Giants' Star 巨人たちの星
1981年
創)
ISBN4-488-66303-3
7
Voyage from Yesteryear 断絶への航海
1982年
早)
ISBN4-15-010586-8
8
Code of the Lifemaker 造物主の掟
1983年
創)
ISBN4-488-66307-9
9
The Proteus Operation プロテウス・オペレーション
1985年
早)
ISBN4-15-010740-8,
ISBN4-15-010741-6
10
Endgame Enigma 終局のエニグマ
1987年
創)
ISBN4-488-66308-7,
ISBN4-488-66309-5
11
Minds,Machines and Evolution (短編集・未訳)
1988年
-
12
The Mirror Maze ミラー・メイズ
1989年
創)
13
The Infinity Gambit インフィニティ・リミテッド
1991年
創)
ISBN4-488-66315-X,
ISBN4-488-66316-8
14
Entoverse 内なる宇宙
1991年
創)
15
The Multiplex Man マルチプレックス・マン
1992年
創)
ISBN4-488-66310-9,
ISBN4-488-66311-7
16
Out of Time 時間泥棒
1993年
創)
17
The Immortality Option 造物主の選択
1995年
創)
ISBN4-488-66320-6
18
Realtime Interrupt 仮想空間計画
1995年
創)
ISBN4-488-66321-4
19
Paths to Otherwhere 量子宇宙干渉機
1996年
創)
ISBN4-488-66319-2
20
Bug Park ミクロ・パーク
1997年
創)
ISBN4-488-66322-2
21
Mind Matters (ノンフィクション・未訳)
1998年
-
22
Star Child (未訳)
1998年
-
23
Outward Bound (未訳)
1999年
-
24
Rockets,Redheads and Revolution (短編集・未訳)
1999年
-
25
Cradle of Saturn (未訳)
1999年
-
(注1)リストの出展は、創元推理文庫「ミクロ・パーク」(ISBN4-488-66322-2)の巻末解説です
    出版社に、ここでお礼を申し上げます
    なお、もし内容に誤りがある場合は、私の記載ミスだと思いますので、お許し下さい。

(注2)「国内収録文庫」欄の「創」は創元推理文庫、「早」はハヤカワ文庫SFの略です。

2.作品全体の傾向
デビュー当時、ホーガンは「ハードSF」作家として紹介されました。

「ハードSF」とは、私の理解では、「自然科学の法則または仮説を、忠実に作品世界に反映させたSF」です。例えば、中性子星を舞台にして、そこに住む生き物を主人公にした物語を作る場合、重力・磁力等の影響によって、生命形態はどうなるのか、もし知的生物が存在するとしたら、どういう社会ができるか、機械技術はどのようなものになるのか、等々、現在知られている科学法則に矛盾しないように、忠実に検討していくわけです。

そういう点で、ホーガンの作品は確かにジャンルでいえば「ハードSF」です。例えば、第一作「星を継ぐもの」では、月面で偶然発見された、5万年前の人体が発端となり、科学者たちの探求によって、人類の起源が発見されるまでの過程が丹念に描かれます。

また、第2作の「創世記機械」では、自然界の4つの力を統一する理論が生まれ、この応用によって人類の新たな発展の可能性が見えてきます。

ホーガンの全作品に共通するもう一つの特徴は、人間性に対する信頼です。どの作品でも主人公は「社会の幸福につくす」という理念を持った科学者(あるいは、その他の職業)で、自らの科学理論や新発見が社会全体の幸せにつながることを願います。そして、こういった成果を横取りして、自らの利益のみに役立てようとする「悪」と戦うのです。

「悪」のカタチはさまざまで、「創世記機械」では、新理論を新たな兵器として応用しようと企てる、政府や軍首脳部、「ガニメデの優しい巨人」では、太古から密かに人類社会を支配してきた悪玉一派、「断絶への航海」では、古いモラルを植民惑星に強制しようとする守旧派、「量子宇宙干渉機」では、金儲けのことしか頭にない経営者たちです。一方、主人公は頼りになる仲間と共に、こうした「悪」と、頭を使い、また時には力で戦い、最後には勝利を収めます。

科学理論の、ワクワクするような新たな応用を背景に、善が悪と戦い、勝利を収める。研究室の中での勧善懲悪劇とも言えるでしょう。ただし、「悪」と書きましたが、ホーガン世界では、最初は悪の側に立っているものも、自らの過ちに気付き、最後には主人公の仲間になる、というパターンも目立ちます。「本当に悪い奴は確かに存在するが、それは、ごく一握りの人間にすぎない」というのが、ホーガンの信念のようです。

また、もう一つ、ホーガン作品から窺える作者の思想は、「経済的成功を重視しない」ということです。「新技術を発明して、結果として金持ちになっても軽蔑しないけど、カネを儲けることを目的にしてはならない、そういうやつは最低だ」という意識がはっきり見えます。特に「仮想空間計画」では、「成り下がる」という思想が紹介されます。最初、大企業のオーナー社長だった男が、いろいろな変遷の後、最終的に漁師(?だったか忘れました)になって、ようやく真の幸せを得る、という例え話により、「成り下がることこそが、人生最大の成功だ」と語られます。

以上が全体的な特徴ですが、デビューから22年ほどの間に、多少の変化が見られます。

つまり、大きく分けると、1987年の「終局のエニグマ」あたりまでは、ホーガンは「最後には善が勝つ」という自信にあふれているようです。

ここまでの物語は、主人公の側の全面的な勝利で終わります。ところが「インフィニティ・リミテッド」あたりから、その自信がゆらいでいるように感じられます。

「インフィニティ・リミテッド」(これはSFではなく冒険小説のようなものです)では、主人公たちは、アフリカの独裁者打倒に成功します。が、この独裁者の後ろには大国の「影の支配者」が控えており、彼らとの戦いは終わったのではなく、むしろこれからが大変だ、ということが暗示されています。「マルチプレックス・マン」でも、月の自由社会は局地戦には勝ったものの、真の悪である地球政府との戦いはこれからです。

「最後にはきっと善が勝つ・・・だが、それまでの道のりは長い」という、やや弱気な思想に変わったような気がします。この心の迷いは、「量子宇宙干渉機」で、さらにはっきりします。この作品では、主人公は、自分達の「悪い」政府が支配する世界を、最後に逃げ出してしまいます。戦いを放棄してしまうのです!

また、こういった思想の変化とともに、作品の背景も変わっていきます。「内なる宇宙」以降の作品は、何らかのかたちで、精神宇宙が舞台となります。

「内なる宇宙」では超巨大コンピュータの内部にメモリーのパターンから進化した電子社会が自然発生し、主人公たちの精神もビットにコピーされて、この社会に飛び込みます。「マルチプレックス・マン」では、一つの頭脳の中に複数の人格が詰め込まれます。「仮想空間計画」は、コンピュータでシミュレートした社会に精神を投影させますし、「量子宇宙干渉機」では、別の並行宇宙の人間と精神交換、「ミクロ・パーク」では、ナノ(微小)・ロボットの中に精神を投影させます。

ホーガンは現実の物質科学に興味を失いつつあるのでしょうか?それとも人間の心という計り知れない広大な宇宙に、ポジティブな興味を抱いているだけなのでしょうか?

ホーガン作品の魅力は、初期の作品にあふれていた、うそくさいほど単純な「本当に悪い奴は殆どいないし、それも必ずやっつけられる」という思想だったと思います。願わくば、もっと元気なホーガン作品を今後も期待したいものです。

3.私が好きな作品の紹介
ホーガン作品って、難しいことを考えて読むものではなく、知的好奇心でワクワクしながら、楽しく読むものでしょう。そういう意味で、どの作品もクズはありません。どれも楽しいのですが、あえて4冊選べば、「断絶への航海」「星を継ぐもの」「終局のエニグマ」「造物主の掟」です。

1)「断絶への航海」

「断絶への航海」は、未来の植民惑星が舞台です。超光速宇宙航行技術が発見される前、人類のDNAを搭載した宇宙船が、この惑星に到着。宇宙船は人類に奉仕するためのロボットを製造し、ロボットはDNAから作り出された第一世代の人類を育てます。こうして、この星には、古い地球の習慣を知らない、全く新たな人類社会が形成されます。

惑星の資源は豊かで、また当初からの人口コントロールとロボットの労働力により、物質的な貧困を知らない社会が育ちます。そこでは、モノは全て無料で、人は自らの良心によってのみ生き方を選びます。文字通り、誰にも何も強制されず、自らの能力のみを基準に、社会に対して出来ることを各自が行う、無政府社会です。芸術・科学・工芸などの能力に優れた人や、社会に対して大きな奉仕を行う人が「豊かな人」として、尊敬を受けます。

このような社会の成熟により、当初はわずかに存在した犯罪的な人間や、人を支配しようとするものも、今では姿を消し、全ての人が真の自由と幸福を共有する理想社会です。

物語は、この惑星に、地球の光速宇宙船が接近するところから始まります。地球は植民惑星とは対称的に、一握りの支配者達が、残り少ない富を独占する社会になっていました。宇宙船は、この惑星の人類を支援するという名目の元、惑星の富を支配しようとする意図で派遣された植民船です。

地球人達は武器をちらつかせながら、自分達の都合のいい社会を再構築しようとします。これに対し、惑星人たちは「無抵抗の抵抗」をねばり強く進め、しだいに、地球人側にも、主人公をはじめ、惑星人に協力する人達が現れます。こうした勢力は日増しに強くなり、追いつめられた守旧一派は軌道上の宇宙船に立てこもって、最終兵器で脅しをかけるのですが、最後には善が勝利を収めます。

こんなユートピアがホントに存在できるかどうか、疑り深い私には疑問もありますが、それでも、心がホッとする作品です。現実生活に疲れた時の癒し効果があります。

2)「星を継ぐもの」

一言で言えば、人類の起源を探る、科学推理小説です。従って、書きすぎるとネタばれになるので、ちょっとだけ紹介します。

発端は、月面で偶然発見された、5万年前の人体(もちろん死体)。主人公である科学者たちの探求によって、人類が宇宙からやってきて、アフリカに移住した事が明らかになります。

それでは、人類はどの惑星からやってきたのか?月の謎、人類進化のミッシング・リンク、小惑星帯の起源、人類の生化学上の特徴の謎、などが語られ、最後に人類起源の解明と共に、答えが出されます。

推理小説を読むような感覚で楽しめる作品です。

この作品には、「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」「内なる宇宙」と3つの続編があります。「ガニメデの優しい巨人」では、「星を継ぐもの」で未解決のまま残された謎が、全て明らかになります。その意味で、この2冊は前編・後編のようなものです。

「巨人たちの星」では、ホーガンお得意の、善(主人公を中心とする人々)と悪(人類社会を影であやつる太古からの組織)の対決が描かれます。

「内なる宇宙」では、超巨大コンピュータの中に出来た、精神社会が舞台になります。この作品で、本当に全ての謎が解明されます。

3)「終局のエニグマ」

これは近未来もの。ソ連が打ち上げた巨大宇宙ステーション。ソ連は「平和利用を目的とするステーションだ」と説明しますが、これを信じない西側は、調査のため、諜報員と女性科学者を侵入させます。ところが、2人はすぐに捕まり、ステーションの一角に拘束されます。主人公の諜報員は逆に「しめた」とばかり、密かに調査を続行するのですが、見つかるのは、「平和利用」という言葉を裏付ける証拠ばかり。真実はいかに?

これも、これ以上書くとネタバレなので、ここまで。一番印象に残っているのは、主人公と同様に拘束されている2人の科学者が、自分達の居場所についてふとした疑問を抱き、身の回りのものを使った実験を繰り返すことにより、ある重大な事実を発見するところです。

4)「造物主の掟」

衛星タイタンで、ロボット達の社会が発見されます(これは、かつて宇宙人の自動工場がここに設置されたなごりです)。地球政府や経済界は「ただで安い労働力を手に入れるチャンス」とばかりに、さっそく調査隊を組織して、現場に向かわせます。

一方、主人公の側の良識ある人々は、「ロボットといえども高度に発展し、自意識を持った存在を、奴隷として扱うのは公正なやり方ではない」と考え、自分達の側の科学者を調査隊に参加させます。これに職業的詐欺師(実は良識ある側の味方)が加わり、ヨーロッパ中世を思わせる、タイタン・ロボット社会での冒険が始まります。

この話には「造物主の選択」という続編がありますが、第一作ほどの出来ではありません。。