今月のお薦め本(1984年1月):ホームワールド[原題:Homeworld 1980年初出
                 著者:ハリイ・ハリスン
                 創元推理文庫より1983年10月23日出版


「1984」といえば、ジョージ・オーウェルのアンチユートピア小説のタイトルです。東京創元社はしゃれのつもりだったのでしょうか?この本もまさにアンチユートピア小説です。

舞台は近未来。人口爆発等による食糧危機が引き金になったのでしょうか、世界は食料配給ルートを押さえた、一部の富めるものが支配する寡占社会になっています。形だけの国は残っているものの、実質はこの新たな貴族階級が世界全体を治める階級社会です。大多数の一般市民は反抗心をなくし、施しのように与えられる食料に頼って生きています。ある意味「平和な」世界です。

主人公は支配階級に属する遊び人。毎日、特にすることもなく、スポーツを楽しみ、美女を楽しみ、酒を楽しむ毎日を過ごしていましたが、とある事件がきっかけで、自分達もまた快楽のくびきにつながれた奴隷同様であり、特権階級の存在を隠れ蓑にして、世界全体を操っている真の支配階級がいることに気づきます。

そして、主人公はこの事実を教えてくれたイスラエルの女性工作員(この時代にはイスラ
エルだけが唯一の本当の民主主義国家として命脈を保っています)と共に解放闘争の世界
に飛び込みます。

二人は、捕らえられた活動家の解放などを協力して成功させ、おきまりのように恋も芽生えるのですが、平凡な公務員を演じている主人公の義理の兄(実は秘密警察の長官)の疑いを招き、最後に二人は罠にはまります。

そして、イスラエルからの救助を期待する二人に冷たい言葉が。実はイスラエルとこの社会は裏取引しており、イスラエルが真に過激な行動を慎む代わりに、この社会もイスラエルの存在を黙認している。二人はやりすぎたので、報復を恐れたイスラエルから売られたとのこと。この言葉が真実である証拠まで示され、女性工作員は絶望して死を選びます。

主人公も、この告げられた事実と恋人の死に衝撃を受けますが、未開の惑星への追放という刑罰を甘んじて受け、心の底で「いつの日か地球に帰り、真の民主主義を取り戻すために戦い続ける」ことを誓うのです。

こう書いてみると「1984」よりずっと明るくて、ハリイ・ハリスンらしい前向きな結論ですね。

なお、この小説は3部作の第1部です。第2部は「ホイールワールド」という邦題(多分、原題も同じWheelworld でしょう)で、1990年頃、同じ創元推理文庫から出版済みです。辺境の惑星に追放され、より逞しく成長した主人公が、地球の陰謀を見破り、自分を追放した連中に一矢報います。

予告によれば、第3部は主人公が地球に帰還して、支配階級に鉄槌を下すというストーリーの筈ですが、16年たっても未だに国内出版されていません。

東京創元社さん、なんとかしてよ! 私は忘れずに待ってるんです(待ち本は他にもあります)。