| アイザック・アシモフのSF(2):近未来の地球と植民惑星のシリーズ | ||||
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| 1.地球と植民惑星の確執、そして地球の孤立の始まり | ||||
| このシリーズは「母なる地球」という短編で幕を開けます。明確な年代は不明ですが、 | ||||
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| という点から推測すると、惑星への植民が始まって200年程度たった頃ではないかと思います。またこれに先立つロボットシリーズの中では、太陽系の惑星での資源採取事業が行われていますので、そのレベルから太陽系外の惑星への進出まで100年かかるとして、ロボットシリーズの末期から数えて300年位ではないかと思います。ということは、現代の400〜500年後の時代でしょう。
この150年間で植民惑星と地球の力関係は逆転し、「今」では地球経済は、植民惑星からの輸入機械に依存しています。植民惑星では、産児制限と遺伝子分析によって「優れた」子供だけが生まれることを許され、労働力としては陽電子ロボットを活用し、少数精鋭の豊かな社会を実現しています。かたや地球は膨大な人口を抱え、植民惑星への移住も殆ど許可されなくなり、かといって自力での新たな宇宙開拓に乗り出す気力も金もない、貧しい惑星です。また地球ではロボットは嫌悪されています。 「母なる地球」はそのような状況を背景にして、地球政府が政治的な計略を仕掛けるお話です。結果的には、太陽系全体が植民惑星の監視下に置かれることになり、新たな惑星への植民も、そもそも地球人の宇宙航行すらも禁止されます。 こうして宇宙を失った地球人は、そのことを忘れるためでしょうか、空の見えない閉塞された空間に安らぎを感じるようになり、しだいに戸外の生活には恐怖感さえ覚えるようになります。シティと呼ばれるドームで覆われた地下の巨大都市に人口が集中していきます。 |
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| 2.地球の宇宙再進出前夜<ベイリ、ダニール、グレディアの出会い> | ||||
| シリーズ第2作の「鋼鉄都市」は、「母なる地球」からさらに何百年かの時が流れ、約80億人の地球人が地球各地の800の「シティ」で生きている時代のお話です。地球の軌道には、かつての植民惑星の子孫達(今では「スペーサー」と呼ばれています)が地球人を監視するための根拠地としている「宇宙市」がおかれ、ここには地球人の出入りは禁止されています。
「鋼鉄都市」は、宇宙市で発生した殺人事件を、ニューヨークシティのイライジャ・ベイリ刑事が解決するSFミステリです。殺されたのはスペーサー、容疑者もスペーサー、いずれも、スペーサーの指導惑星オーロラのVIPです。一歩間違えればスペーサー同士の政治的問題に発展しかねず、またそうなれば地球も巻き込まれ、今以上の厳しい仕打ちを受けるのは必至の状況です。 ベイリ刑事は否応なしにこの事件の解決を命令され、オーロラから派遣された完全人間型の第1号ロボット、R(ロボットの”R”)・ダニール・オリバーと共に捜査します。当初はダニールを毛嫌いしていたベイリですが、捜査を進めるうちに自らの偏見に気付き、最後には友情を感じるまでに至ります。 事件の方は、この二人の活躍で無事に解決し、ベイリ自身はご褒美に1階級進級(この時代、市民は階級分けされており、階級によって享受できる権利が異なっています)し、地球も屈辱的な「宇宙市」の撤退という勝利を得ました。 また、当初犯人と疑われていた、当世随一のロボット工学者ファストルフ博士(オーロラ人)の無実を証明したことで博士の知己を得、このことがベイリと地球の運命に大きな影響を与えます。 ******* 「はだかの太陽」の方も主人公はベイリ&ダニールのコンビ。宇宙市の事件の翌年、スペーサーの50の惑星の1つ「ソラリア」で殺人事件が発生します。今度も被害者はVIP。しかも、この星のみならずスペーサーの世界にとって重要な人物でした。事件捜査の主導権を握ったオーロラは、1年前の事件を見事に解決したこのコンビに解決を託します。 ベイリは、捜査のため地球を離れソラリアに向かいます。地球人が地球を離れるのは何百年ぶりかの歴史的な出来事です。ベイリにとっても、安全な地下都市から空虚な宇宙空間の旅、惑星全体の人口が2万人という、自然だらけの惑星ソラリアでの捜査と、容易でない思いをしましたが、今回も見事に事件を解決します。 ちなみに、ソラリアは、この後のシリーズでも舞台の一部となる星で、他の49の惑星がかつて地球人が植民した星であるのに対し、ソラリアだけは50番目に、植民惑星によって開拓された、いわば第2世代の植民星です。 人口は前述のように2万人。この人数はきっちり産児制限されていて変わることがありません。人々は互いに何百Km も離れた邸宅に暮らし、それぞれ1万体程のロボットを使用して、農園やら工場やらを経営しています。人との会話は立体テレビで行い、直接接触するのは夫婦同士のみ。それも、普段はできるだけ会わないように努め、法律で定められた一定日数だけ、子孫を残すためという、これも法律上の義務に従って接触する、という生活です。 ちなみに子供は当然ながら親からは引き離され、養育専門の敷地でロボットに育てられます。幼いうちは他の子供に近づくことが許されますが、物心つく頃からはそれぞれの部屋に隔離され、遊ぶのも立体スクリーン越しという、まっとうなソラリア人らしい生活に慣らされて行きます。 このお話には、殺されたロボット工学者の妻、グレディアが登場し、ベイリに恋心を抱きます。ベイリの方も心引かれるのですが、捜査が終われば妻子の待つ地球に帰るしかない身、最後に軽く手を握るだけでお別れします。 また、ベイリは、宇宙市とソラリアの事件を捜査し、スペーサーやロボット達と接触するうちに、地下ドームに守られて安楽に過ごしている地球社会への疑問を抱くようになります。このままでは地球はジリジリと衰退するのではないか?と。 一方、スペーサー達の世界も思っていたようなユートピアではなさそうで、それぞれに地球とは別の問題を抱えていることも分かりました。そもそも50惑星が植民されてから何百年も経つのに新たな植民など行われる気配さえありません。スペーサー達もまた、ロボットに傅かれる安楽な生活の中で、発展する気力を失い、ゆっくりと衰退に向かっているのでした。 このままでは地球もスペーサーも共倒れになる。地球人は再び過去の冒険心を思い出し、宇宙に進出すべきだ、そう考えたベイリは、常識に毒される前の若者に戸外教育を施し、ゆくゆくは宇宙船を手に入れて惑星植民運動を起こそうと決意します。 |
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| 3.地球の宇宙進出への道が開かれる | ||||
| 次の作品「夜明けのロボット」は、ベイリとダニールのコンビによる最後のミステリです。刑事としての職務の傍ら、若者の戸外教育活動に取り組んでいるベイリは緊急の用件で呼び出されます。
待ちかまえていたのは政府の要人。「オーロラでファストルフ博士が所有する人間型ロボットが破壊された。政敵にファストルフ博士自身が犯人だと噂され、窮地に陥っている。博士は地球に好意的な政党を率いており、ここで失脚されたら困る。博士からの要請により、ベイリは直ちにオーロラに赴き、必ず博士の無実を証明するように。」という、いつもの無茶な命令が下されます。 抵抗するベイリも「うまく解決すれば、オーロラは、ご褒美にベイリが望んでいる宇宙船をくれるかも」という言葉と、どっちみち拒否できないという事情に諦め、オーロラ目指して生涯2回目の宇宙の旅に出ます。 オーロラでは、今ではなくてはならぬ相棒のダニールと、もう1体、ファストルフ博士が貸してくれたR・ジスカルドに助けられながら捜査を行い、ファストルフ博士が犯人だと非難していた反対政党の党首こそが事件の首謀者だ、ということを証明します。 ベイリはオーロラで、ソラリア事件の後にオーロラに移住したグレディアと再会します。実のところグレディアはファストルフ博士の被保護人であり、破壊されたロボットの使用者でした。ベイリのオーロラ滞在は、わずか2泊3日でしたが、二人の間に愛が再燃します。 ベイリは、ずっと一緒に暮らしたいというグレディアを、どんなに愛し合っていてもそれは出来ないことだ、となだめます。そして「オーロラは、地球による宇宙植民計画を支持し、技術面での支援を与える」というファストルフ博士の言葉を大きなお土産に、地球に帰って行ったのでした。 このお話の中で、「スペーサーなら誰でも知っている伝説の偉人」スーザン・キャルビン博士と、陽電子ロボットにまつわる二つの伝説、 また、ファストルフ博士は人間の行動を分析し未来を予測する「心理歴史学」の可能性についても語っており、このシリーズがファウンデーション世界ともつながりがあることを暗示しております。 |
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| 4.地球による植民が本格化 | ||||
| このシリーズ最後の作品「ロボットと宇宙」は、前作から約200年後の時代を背景とするお話です。
前作で政治的基盤を強化したファストルフ博士は、この物語の数年前に他界(注)するまで、オーロラの最高指導者であり続けました。博士はベイリとの約束を守り、ベイリ帰国の2年後には自ら地球を訪問して、オーロラは地球による宇宙植民を支持し支援する旨を、公式に宣言します。(注:スペーサーはとても長命で、300〜400才が寿命です) また、地球訪問の際ベイリと会談を行い、「オーロラの方も、(ファストルフ博士の政敵)アマディロ博士が進めている、完全人間型ロボットによる宇宙植民計画を推進して欲しい」と頼まれます。「なぜ?」と聞く博士に、ベイリは「もし地球人による宇宙植民が失敗しても、オーロラによる植民が成功すれば、人類は広がっていくことが出来る。両方が滅びるよりはスペーサーだけでも繁栄する方がましだから。」と答えます。 博士は、「両方が成功するという最高の結果」を心から願い、アマディロ博士の計画を助けるために、彼が指導する科学者サークルに加わり、完全人間型ロボットの開発技術を公開します。ところが、ここで大きな問題が起きました。オーロラの民衆は自分達と区別出来ない外見を持ったロボットに強烈な反感を抱いたのです。ロボットは植民に使うだけだと説得しても無駄で、作成された50体あまりのロボットは人目に触れない地下倉庫に、文字通り「お蔵入り」になり、オーロラの植民計画は挫折します。 ファストルフ博士は「地球人がやっているように、ロボットを使わず自分達の力で植民を進めるべきだ」と主張しますが、何百年もの寿命を危険にさらして未開の植民惑星に出かけるようなスペーサーはいない、という現実の前、何をすることもできませんでした。 一方、地球人による植民の方は大成功を収めました。80億人の人口を抱える地球は、冒険に目覚めた若者達を次々に宇宙に送り出し、200年間で約30の惑星に進出します。ベイリの息子ベントリイも、ファストルフ博士の地球訪問の翌年、第1陣として出発、ベイリ自身もその2年後に息子の後を追って出かけます。 この物語の時代では、地球の新たな植民惑星の多くが発展の時代を迎え、オーロラを指導惑星とするスペーサーの世界「スペーサー・ワールド」と張り合うまでに成長しています。スペーサーの指導者達は、既に自分達が追い抜かれつつあり、もし戦争になった場合に、長期的には勝てないだろうという認識を持っています。 新たな植民惑星群は「セツラー・ワールド」と呼ばれています。彼らはロボット依存によって覇気を失った「スペーサー・ワールド」を他山の石としてロボットの使用を禁止、また地球を「母なる星」として崇拝しています。例えば地球太陽系内での戦闘行為はいかなる場合もタブーとされています。 地球を精神的支柱として、また新たな移民の供給地として発展を続ける「セツラー・ワールド」と衰退に向かいつつある「スペーサー・ワールド」。起死回生のチャンスを懸けた「スペーサー・ワールド」の反撃の時が近づき、宇宙は緊張に包まれています。 ******* この物語の主人公は、グレディア。彼女は、ファストルフ博士の遺言により、ダニールとジスカルドの所有者となり、オーロラで平和な毎日を送っていましたが、「ソラリアから人間が消える」という事件をきっかけに冒険に巻き込まれていきます。 ソラリアから人間が消えた、という事件報道からまもなく、彼女の元にオーロラ政府を仲介として、一人のセツラーが訪れます。彼の名はD(ダニール)・G(ジスカルド)・ベイリ、彼女の恋人イライジャの7代目の孫で、貿易商人です。ベイリ家では代々、男子にダニールまたはジスカルドの名前を付ける習慣があるとのこと。D・Gはソラリアに着陸した2隻の交易船が爆破されたこと、その原因を調べるためのソラリアへの調査旅行に同行して欲しいことを伝えます。 最初は嫌がったグレディアでしたが、「ジスカルドを信頼するように」という亡きベイリの言葉を思い出し、ジスカルドの勧めに従って、生まれ故郷のソラリアへの旅を決意します。 ソラリアでは、ソラリア人以外は人間ではない、と条件付けられたロボットの攻撃に遭います。危機一髪のところを、グレディア&ダニール&ジスカルドの力で抜け出し、その報告のため、D・Gの故郷星、ベイリ・ワールドに向かいます。ここでグレディアは民衆に演説し、彼らの共感を得、彼らを説得するという、これまで眠っていた才能を発揮します。偉人ベイリの大切な友人であったという歴史的事実も手伝い、彼女はわずか1回の演説で、セツラー達の崇拝するヒロインとなります。また彼女自身セツラーに共感し、セツラーとスペーサーの平和的な融和を説いて廻ることこそが自らの使命だと悟ります。 一行はいったんオーロラに立ち寄った後、地球に向かいます。グレディアは地球でも市民の熱狂的な歓迎を受けます。その後、グレディアの使命が成功したのかどうか、その点についてはこの物語は語ってくれていません。ただ、オーロラとソラリア、ベイリワールドそして地球を訪れたこの旅の航海日誌は長い時を超えて生き残り、2万年以上の後に大きな役割を果たします。 さて、グレディア達の旅と同時に、オーロラではアマディロが陰謀を進めていました。彼はスペーサーによる宇宙植民が果たせぬ夢となると、今度は地球による植民の妨害に全力を注ぐようになります。 最後にはアマディロとその腹心の部下が地球に赴き地球を破壊しそうになります(破壊の舞台は伝説の「スリーマイル島」)が、グレディアと共に地球を訪れていたダニールとジスカルドが、その企てを阻止します。その過程でジスカルドの機能は停止し、地球の環境にある変化が起きます。 この物語の中で、ダニールはロボットの3原則の上位概念となる、第0条を「発見」します。それは、 これ以降、ダニールは人間から距離を置き、亡きベイリの夢であった人類が繁栄する宇宙を実現するため、自らの意志で行動するようになります。お話的には、この後ダニールが登場するのは2万年以上が経った後となります。 ******* アシモフ自身が雑誌に寄稿した文(「ローカス」1985年6月号)によれば、この作品と、次の「宇宙気流」の時代をつなぐ長編を計画している、とのことですが、残念ながら、これは書かれずに終わりました。 |