1973年10月臨時増刊号(178号)

ハヤカワSFマガジン178号表紙
(C) 早川書房
本号は、「秋のワンダー・デラックス号」と題した、臨時増刊号です。前半(国内書き下ろし)、中盤(エッセイ)、後半(海外古典小説)と、「きっちり3部に分けてみました」という構成で、臨時増刊号恒例のコミックスもなし。秋の夜長、じっくり読書を楽しんで下さいというメッセージが込められているのでしょうか?

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まず前半は、「キャプテンたずねて三光年」、「タイム・ジャック」、「出帆旗、宣候!」、「死はわが職業」、「白村江」、「金の卵」の6作品。

「キャプテンたずねて三光年」は後回しにして、このほかの5作品を、個人的におもしろかった順に紹介します。

「金の卵」は、突然運が向いてきた男の出世談。合間合間に、「この男に金をもうさせたまえ」という祈りが挟まれます。男に幸運が訪れた理由は、この祈りと関係があるのか、また、こんな祈りを捧げているのは誰なのか?冒頭から話に引き込まれていきます。星新一さんの作品の中でも秀作に入るのではないかと思います。

「タイム・ジャック」は、歓楽街や18ホールのゴルフ場まで備えた超大型タイムマシンが乗っ取られるお話。小松左京さんらしくない、どたばたコメディです。しかもただの「どたばたコメディ」ではなく、路地裏のどぶに赤子の死体が浮かんでいるといったブラックな情景をさりげなく混ぜたり、機体が揺れると登場人物のせりふも揺れたりと、筒井康隆風の「どたばたコメディ」です。

扉の挿絵上部に『O誌の「日本以外全部沈没」の返礼として』と書かれており、つまり意図的に筒井康隆を真似た作品です。扉にはさらに「いかなる実在の人物、事件もモデルにしていません」とありますが、この年(1973年)7月20日に日航機ハイジャック事件が起きており、この事件のパロディであることは明らか。

さらに、作品中の登場人物「大杉酔狂」が「小松左京」、「月古市」が「星(新一)」であることも明らか。ということは新妻とともに時間旅行に参加し、話が始まるやいなや妻といちゃつき始めたた主人公(「おれ」)は「筒井康隆」という設定でしょう。それに気づくと「大杉がおれの仲人(小松さんが筒井夫妻の仲人であるというのは実話)で、仲人する代わりにやると約束した初夜権」というくだりには、にんまりしてしまいます。まさか文字通りではないのでしょうが、おそらく酒の勢いでなにやら怪しい冗談が交わされたのかと。

ところで、前述のハイジャック事件は、「よど号事件(1970年)」ではありませんが、同じく赤軍派による事件で、1970年代には、赤軍派によるハイジャックがこの他に1件起きています(1977年)。ハイジャックの当たり年ですね。1973年の事件そのものは定かな記憶がありませんが、そのころ、大学校門前に警官隊が検問所を作り、手荷物検査を受けた記憶があります、「ちょっと見せて下さい」と言葉をかけるやいなや、バッグに手をかけて中身を見るというやりかたに、いわゆる「ノンポリ」の私ですら軽い怒りを感じたことを覚えています。こんなに頻繁に大事件が起きる時代なので、しかたがなかったのでしょうが・・・

そういえば、この年の8月には金大中(当時はニュースで「キム・デジュン」ではなく「きん・たいちゅう」と発音していましたが)事件も起きています。連日のようにラジオにニュースが流れていました(当時、私はTVを持っていませんでした)。まさか、この人が後の韓国大統領になるとは・・・人の運命とは分からないものです。

「死はわが職業」は、過去の記憶を失ったサイボーグを主人公としたアクションSF。主人公は、木星探検のために志願して強靱な体を持つサイボーグになったのですが、任務のさなか事故に遭い、それがきっかけで逃亡します。彼は、理由は分からないものの「火星にバラ園を作らなければならない」という強迫観念にとりつかれています。そして、大金を稼いでこの夢を実現すべく、「殺され屋」つまり殺し屋のターゲットにされてしまった他人(大抵は仕事をしくじったマフィア幹部等、悪いやつですが)になりすまして代わりに殺されたふりをする、というユニークな仕事を始めます。

「出帆旗、宣候!」も、やはりサイボーグが主人公。年を取って探検隊から声がかからなくなった主人公ですが、なおも宇宙での仕事を諦めきれずにいます。ある日、とある惑星で異星人の痕跡が発見され、過去に接近遭遇の経験を持つ主人公が調査隊に参加することになります。サイボーグである主人公と、サイボーグになり宇宙の果てまで探検することを切望する若者、そして、若者を火星にとどめたいと願う恋人。この3人が主要な登場人物で、異星調査中の事件に、若者のサイボーグ願望が織り交ぜられながら話が進みます。そして、エピローグで、恋人たちの末路が語られます。未来の出来事を背景として人間ドラマを語るという、典型的な光瀬龍スタイルのSFです。サイボーグ

「白村江」は、これも、作者お得意の日本古代を舞台にしたタイムパトロールもの。紀元7世紀前半の日本に忍び込んだ歴史改変者を追いつめるお話です。

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中盤は「オカルト・エッセイ特集」と銘打っていますが、オカルトと言うよりも、殆どは擬似科学に属するエッセイです。典型的なのは、シンクレア・ルイス(ノーベル文学者)の「霊魂かテレパシーか?」で、さまざまな「実験」を証拠として「霊魂またはテレパシーの存在以外には説明がつかない」と結論づけています。このエッセイと同列に扱われてしまっては、ユンクも墓の中で憤慨しているのではないでしょうか。

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もう一つの書き下ろし作品「キャプテンたずねて三光年」は、小説と言うより、むしろ、小説の体裁を取った、スペース・オペラ紹介です。主人公の野田大元帥が、たまたま助けたオットーとともに、行方不明のキャプテンフューチャーを捜索するという筋立てで、捜索の過程で、さまざまなスペース・オペラのヒーロー・ヒロインと邂逅します。この作品は、本誌冒頭の15ページと、国内書き下ろし最後となる5ページに分けて掲載されています。おそらく、昔の米国SFの世界に誘い、これを受けて、米国古典SFが続く、という構成にしたものと思われます。

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後半は、「クラシック名作特集」と銘打って、1929年から40年の米国SFが紹介されています。各作品のあらすじ(および感想)は下表の通りです。これを読んでいただければ推察できるように、個人的に気に入ったのは、#4の「人生の部屋」。今となっては目新しい趣向ではありませんが、下層人生体験というアイデアが、約80年前(この雑文は2008年5月3日執筆)に生まれていたということ自体にセンス・オブ・ワンダーを感じます。

逆に、素直に感情移入できなかった作品は、#3と#5。#3の「宇宙の反乱者」は、主人公たちがあまりにも身勝手すぎて、これが鼻につきます。無実の罪で流刑されて怒りに燃えるのは分かるけど、だからといって流刑地に大災害を起こして他の囚人(他にも無実の罪で流刑された人がいるかも)を犠牲にするというのは行き過ぎでしょう。さらに、旅客船を強奪するのも感心できないし、その上、無実の乗客を見殺しにして逃げ出すに至っては、言語道断です。話のテンポは悪くないのですが、そんな感じで、主人公のモラルの低さに噴飯しながら読破してしまいました、

#5の主人公の場合は、あまりに無計画というか、思慮が欠如しているのが、お気に気に召さない最大の理由です。この作品を読んでいて、昔どこかで読んだ「白痴プロット(主人公が白痴でさえなければ、簡単に事件が解決できるストーリー)」という言葉を思い出してしまいました。ちなみに、この「白痴」という単語も今では差別用語扱いですね。「精神に高度の障害を負った人のプロット」とでも言い換えないとダメなのでしょうか?

#1と#2は、特に反感を感じることなく読むことはできましたが、ご都合主義というか、むりやりに結論に突き進んでいるような感じは否めません。例えば、「火星ノンストップ」で、地球から火星まで空地を輸送できるような科学・技術力を持った集団を、拳銃一丁の主人公が退治するとか、「火星からの使者」で、既に小惑星帯を探査済みの火星人が、世界地図と大気成分を教えてもらわないと地球に到来できないとか、そんなところですね。

以上のように、いずれの作品も多かれ少なかれご都合主義的にストーリーが進むのですが、逆に理詰めでないだけに、ぽんぽんと小気味よく話が展開していきます。これがクラシックの醍醐味でしょうか。

# 題名 初出(*1) あらすじ
1 火星ノンストップ 1939年2月
(Argosy)
主人公(プロペラ機の興業パイロット)は、燃料広告目的での無着陸飛行を行っていたが、南極付近で未曾有の大嵐に巻き込まれ、小さな島に緊急着陸する。
その島では、美貌の女性科学者が、世界中で起きている異常気象の原因調査を行っていた。彼女は、主人公に、火星に降り立った異星人が、空間チューブを使って、地球から火星に空気を奪い取っており、これが大嵐を生み出していること、そして、空気枯渇による人類存亡の危機が迫っていることを告げる。
主人公は、愛機(プロペラ機!)を操って空間チューブをくぐり抜け、火星に侵入。たった一人で異星人基地を全滅させ、地球の平和を取り戻す。
2 火星からの使者 1930年11月
(Amazing)
無名でありながら実は偉大な業績を挙げたという科学者について、その元助手が語る回顧談。
世界中で、特定のラジオ周波数帯にだけノイズが発生するようになり、やがてテレビ画像にもノイズが現れるようになる。この科学者は、これらのノイズを分析する機械を発明し、ノイズが火星人によるメッセージであることを発見する。さらに、メッセージを受けるだけでなく、テレビ電話をちょちょっと発明して、火星人との会話に成功!
ところが、火星人は地球人が多数の国に分かれて争っているという、異常な行動を取っていることを知り、地球人類を正すために地球火星化プロジェクトに乗り出す。そして、科学者に、地球に安全に着陸するため、世界地図と大気成分を知らせるように求める。
科学者は悩んだ末に、火星人の勝手な干渉を許してはならないと決意し、コミュニケーション機器を破壊する。かくて、誰にも知られることなく地球の危機は去る。
3 宇宙の反乱者 1939年2月
(Dynamics Stories)
主人公たちは、政府某期間のトップが惑星間犯罪に手を染めていることを発見。口封じのために身に覚えのない罪を着せられ、木星の強制労働施設に流刑される。
そして、自分たちを悲惨な境遇に追いやった首謀者に復讐するために、施設を破壊し(このために、他の流刑者と看守多数が犠牲になる)、補給船を奪って、宇宙に逃走する。
ところが、木製から脱出したのもつかの間、燃料不足に気づき、大型旅客船強奪を決行。いろいろあった末に、旅客船を手に入れたものの、突然、船のエンジンが停止し、太陽に落下中であることが判明。
補給船(旅客船にドッキング中)に旅客線の燃料を移し、補給船で脱出して(てことは、船倉に閉じこめた旅客船のクルーや乗客は犠牲にするってことでしょう)、後は気ままに宇宙を旅して回ろうやと決めたところでお話は終わり。
4 人生の部屋 1929年10月
(Amazing)
主人公は、突然、湖底で目覚め、あわてて水面に泳ぎ上がる。自分が誰なのか、どこに住んでいうか等は覚えているのに、なぜ湖底に沈んでいたのか、思い出せない、とりあえず自宅に戻り、風呂につかっていると、徐々に昨夜からの記憶が戻ってくる。
プロローグはこんな感じで、以降、主人公が取り戻した記憶が語られる。
主人公は、昨夜のパーティーで、ある科学者と意気投合し、その自宅を訪れて、ヴァーチャルライフ再現マシン(五感に働きかけ、あたかも自分が別の人生を生きているかのように思わせる機械)を体験したのだった。
主人公は、徐々に、リッチモンドという巨大なビル社会での、感覚的には数ヶ月に及ぶ生活を思い出す。
リッチモンドの「未来的」な生活等には、いかにも昔の人が想像した未来図的な、やや古めかしいさを感じる点もあるが、全体的には、現代の作品といっても違和感がない。
5 宇宙の方舟 1940年3月
(Future)
時代は30世紀。太陽が新星化することを知った主人公(天才科学者)は、世界中に警鐘を鳴らすが、誰にもまともに相手されず、やむなく、脱出ロケットを自費製作し、同乗者を募集する。
ところが、当初募集した科学者、技術者は数名しか集まらず、やむを得ず、一定年齢以下で健康な人間であれば誰でもOKという、極めていい加減な募集要項に変更。結局、出発直前に偶然に乗り込んだ与太者を含め、約100名の乗員を乗せて、新星化直前に地球脱出に成功する。
募集要項から容易に推測がつくように、全く意志統一のできていない集団なので、出発直後から不平・不服が続出。主人公が「目的地はアルファ・ケンタウリ」と明かすやいなや「天王星がいい」(どういう根拠?)という強烈な反対集団が生まれる始末。(もっとも、「アルファ・ケンタウリには10個以上の惑星があるから、太陽系から類推して、そのうち一つは地球のような惑星だ」と言われて納得する人もいないと思うけど。)
そんな次第で、船内では不穏な空気が徐々に高まり、最後に天王星推奨派による反乱が勃発するが、(主人公ではなく)乗員の一人のヒロインの活躍で事件は解決する。
(*1)初出年月等は、主として翻訳作品集成によります。

全掲載内容
コンテンツ
作者
ページ
表紙イラストレーション 画:生頼範義
表紙
広告 三和銀行の広告
 サンワ2年定期
-
表紙内側
巻頭言(増刊号の案内) M・M
1
1
<スペースオペラ豪傑譚 序章>
 キャプテンたずねて三光年
野田昌宏 画:楢喜八
2
16
タイム・ジャック 小松左京 画:真鍋博
17
41
出帆旗、宣候! 光瀬龍 画:岩淵慶造
42
75
死はわが職業 田中光二 画:山野辺進
76
107
白村江 豊田有恒 画:金森達
108
140
オカルト・エッセイ特集1
 宇宙人よこんにちは
アイヴァン・T・サンダースン
 訳:小隅黎
141
154
オカルト・エッセイ特集2
 心理的投影としてのUFO
カール・G・ユンク
 訳:村松仙太郎
155
161
オカルト・エッセイ特集3
 霊魂かテレパシーか?
シンクレア・ルイス
 訳:深町真理子
162
173
オカルト・エッセイ特集4
 幻覚と霊体離脱
スージイ・スミス
 訳:関口幸男
174
184
オカルト・エッセイ特集5
 転生の原理
R・ドゥイット・ミラー
 訳:風見潤
185
192
オカルト・エッセイ特集6
 ポルターガイストの精神分析
ナンダー・フォダー
 訳:北川智也
193
208
イラスト・ファンタジア
 ドラキュラへの慕情
深井国
209
224
金の粉 星新一 画:畑農照雄
225
230
<スペースオペラ豪傑譚 序章>
 キャプテンたずねて三光年
野田昌宏 画:楢喜八
231
235
火星ノンストップ
[NONSTOP TO MARS]
ジャック・ウィリアムスン
 訳:風見潤 画:斉藤和明
236
263
火星からの使者
[MISSIONARIES FROM THE SKY]
スタントン・A・コブレンツ
 訳:団精二 画:金森達
264
283
宇宙の反乱者
[MUTINEERS OF SPACE]
ロイド・A・エシュバック
 訳:柴野拓美 画:斉藤和明
284
302
人生の部屋
[THE CHAMBER OF LIFE]
G・P・ワートンベイカー
 訳:野口幸男 画:山野辺進
303
325
宇宙の方舟
[AFTER DOOMSDAY]
ジョン・コットン
 訳:岡田芙 画:金森達
326
352
広告 立風書房
 新しい文学的視野をひらく異色アンソロジー・シリーズ
  異形の白昼(筒井康隆編) 他
 乱歩賞作家 麻雀推理
-
裏表紙内側
広告 丸善
 日本PTA全国協議会推進 アテナ ノンシンナーボンド
 (大切な子供たちをシンナーの害から守りましょう)
-
裏表紙
凡例  :小説    :書評、SF関連の話題等    :投稿小説
   ■ :コミック  :SF周辺の話題(アート、音楽、映画等)
   ■ :投稿    :早川書房からのおしらせ等  ■ :広告