1973年8月号(175号)

ハヤカワSFマガジン175号表紙
(C) 早川書房
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(各号の掲載作品について、読者が1〜5点の範囲でハガキ投票を行い、平均点が高い作品を掲示していました。4点を超える作品は滅多にありませんでした。今回は1973年5月号の結果発表です。)
順位 題名 作者 得点
1 遺跡の風 眉村卓 3.80
2 逃げる 半村良 3.49
3 ネオンムラサキ 河野典生 3.47
4 夜の翼 レスター・デル・リイ 3.23
5 創造性の問題 ラングドン・ジョーンズ 3.17
話題の最新映画3作品(「ソイレント・グリーン」「ソラリス」および「荒野のストレンジャー」)についての紹介文が掲載されています。題して「家具としての女」。

ソイレント・グリーンは近未来(2020年頃)のニューヨークを舞台にした殺人ミステリーですが、ファニチュア・ガール(高級邸宅の付属品として付いてくる、アンティークな家具ならぬ家付き美女)というアイデアが使われているとのこと。

今では相当問題になりそうな設定で、2020年にそんな文化が出現することも到底考えられませんが、1970年頃には50年後の文化背景として、さほど違和感のない設定だったのでしょうか?

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さて、今月号は7つの短篇と巻末ノヴェルという構成です。そのうちの半分(4作品)は近未来SFという点で共通しているので、後で対比しつつご紹介することにして、まずはそれ以外の4作品を片づけましょう。

「プロセス」は異星の知性ある森を主人公とした物語です。この知性ある森は、自らの縄張りを守り広げようと、他の森や時折飛来する宇宙船と戦いを繰り広げます。「知性ある森」という異質の生命体のはずなのに、まるで人間のような論理で思考するという、いかにもヴォクトらしいお話です。

宇宙船ビーグル号の一話に組み入れられても違和感がなさそうですが、逆にこういう話は連作でないとインパクトが薄いような気がします。

「私は変身する」はちょっぴりブラック風味のユーモアSFです。ストーリーを紹介してもあまり意味はないのですが、着陸中の空飛ぶ邸宅を訪れた主人公が連続殺人事件の犯人を捕まえるお話。個人的には空飛ぶ邸宅というアイデアが妙に気に入りました。

「マッシュルーム」は「街の博物誌」シリーズの第5話。背景は現代です。

今回はいつもにまして不気味なお話。近所の子供と遊んで帰ってきた娘の様子がおかしい。何を聞いても、何か上の空でぼーっとしています。そして翌日、娘の姿がきえてしまいます。夫婦は遊びに行きそうなところを捜索するのですが・・・

「かくもあわれな物語」では、ある夜主人公が心地よくまどろんでいると、どこからか助けを求める声が聞こえてきます。それは最近不可解な天変地異に襲われ文明存亡の危機に陥っている種族からのメッセージでした。彼らは主人公だけが彼らを助けることができるといいます。それも実に簡単な方法で・・・
いつの時代を背景にしても成立しそうなお話で、今でも古びた感じがしません。シェクリイにしては結末のインパクトが弱いような気がしますが、長い間記憶に残っているところをみると、やはり名作と言うべきでしょうか。

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残りの4作品については、各作品中に語られている近未来社会像に軽く触れつつご紹介致しましょう。

「タイウッド教授の実験」はアシモフお得意の謎解きSFです。ある夜、米国最大の原子力発電所で不可解な事故が発生します。それは、全ての核燃料が爆発することなく、放射線すら発生させずに一瞬で消費されてしまうという出来事でした。そして発電所内には著名な物理学者の遺体が、ギリシャ語で書かれた化学の教科書とともに残されていました。

一気に放出されたはずの核エネルギーはどこに消えたのか?遺体で発見された物理学者(彼は第二次世界大戦中に原子力爆弾の開発に携わったことを悔やんでいました)との関わりは?そして彼は何のために化学の教科書をギリシャ語に翻訳させたのか?

謎解きを楽しむお話で、社会的背景については特に語られていないように見えますが。この小説の初出は1949年!アメリカ最大どころか、世界中のどこにも原子力発電所など存在していない時代でした。

原子力発電所の建設計画すら存在しない時代に、原子力発電に係わる事故について思いをはせる・・・これこそがセンス・オブ・ワンダーの源流なのかもしれません。

「停戦」は近未来戦争SF。最前線の「監視所」でたった一人、囮役を命ぜられた兵士が、突如として革命的な新兵器を考案し、わずか数週間で実用化に成功します(アリエネー)。まるでレンスマンの世界ですね。「いつまでも続く戦争」がテーマになっているのは、米ソ軍備拡張戦争まっただ中という時代背景(本作品の初出は1958年)を反映しているのだと思います。

「巫山の夢」は近未来社会にミュータント信仰が蔓延し、「心理警察」が捜査に乗り出すのですが、実はミュータント信仰の発生源は・・・というお話。正直なところ、読んでいて特にドキドキもワクワクもせず「この雑文を書くためだけに読み通しました」という感じです。作品中「20〜30年前の1980年〜1990年」と書かれているので、2010年頃を想定していると思われるのですが、あまりにも描かれているテクノロジー(既に多くの恒星系が探検されている)と現実の2007年のテクノロジーがかけ離れていて、それだけでうさんくさい印象を抱いてしまったように思います。

また文化的にも、「男に騙され、もてあそばれて、子を産まされた腹癒せに、相手と子を殺して自分も死ぬ」という事件が「あまりにも古風に過ぎる」と感じられる社会というのは、現実の現代とあまりにもかけ離れているように感じます。少なくとも社会批評等を目的とした作品でもなさそうなので、どこともいつとも分からない社会を背景にした方が違和感なく読めそうな気がしました。

「閉ざされた水平線」も(多分)近未来の冒険SFです。アメリカの大学生である主人公が反世界政府運動に巻き込まれ、恋人と逃避行するお話。アクションシーンはスピード感もあってそれなりに楽しめたし、海面が酸素を生み出すための植物プランクトンで被われている等、いかにも近未来的なシーンも魅力的なのですが、この作品が書かれた時代(1960年〜70年頃)の学生運動の図式(圧制者としての政府と自由民としての学生との対立構造)をそのまま全世界における基本的な対立構造として敷衍したような社会が描かれており、この点に違和感を感じてしまいます。

もっとも、作品中では時代が特定されていないので、例えば200年後にこういう社会が現出する可能性も皆無ではないのでしょうが、学生達のらんちきパーティーの描写などからは、さほど現代と時代が離れていないような印象も受けるので、それが違和感を感じる理由かもしれません。

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こうしてみると、現実の社会的背景をいくつも近未来小説に持ち込んでしまうと、数十年後には各描写間の時代的な不整合が露わになり、これが時代がかった印象、あるいは違和感を与えてしまうように思えます(「巫山の夢」も「閉ざされた水平線」も、当時は楽しく読めたはずです)。逆に「ファニチュア・ガール」のような現実と断絶した設定は、おそらくいつになっても、現実と違うという違和感を感じさせないように思います(所詮作り話ですから)。この辺りが近未来小説の難しさなのかもしれない、そんなことを感じました。


全掲載内容
コンテンツ
作者
ページ
表紙イラストレーション 角田純男
表紙
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 サンワ総合口座
-
表紙内側
巻頭言(最近の出来事、今月号の紹介等) M・M 画:中島靖侃
1
1
目次 画:中島靖侃
2
3
(連載第4回)思考の憶え描き
 深海魚計画
真鍋博
4
11
現代宇宙詩シリーズ 9
 宇宙のコロンブス[COLUMBUS OF THE SKY]
ジョン・フェアファックス
 訳:矢野徹
12
14
現代宇宙詩シリーズ 9
 宇宙遊泳[SPACE WALK]
ジョン・フェアファックス
 訳:矢野徹
14
16
タイウッド教授の実験[THE RED QUEEN'S RACE] アイザック・アシモフ
 訳:石川智嗣 画:岩淵慶造
17
38
広告 1973年度 恒例 ハヤカワ・SF・フェア
 全国主要書店にて開催 昭和48年7月1日〜8月31日
-
39
39
タイウッド教授の実験[THE RED QUEEN'S RACE] アイザック・アシモフ
 訳:石川智嗣 画:岩淵慶造
40
43
かくもあわれな物語[STARTING FROM SCRATCH] ロバート・シェクリイ
 訳:浅倉久志 画:霜月象一
44
49
巫山の夢 福島正実 画:楢喜八
50
65
(連載第7回)日本SFこてん古典
 ノンSFこてん古典
横田順弥
66
75
停戦[CEASE FIRE] フランク・ハーバート
 訳:関口幸男 画:中島靖侃
76
95
私は変身する[CONFESSIONS] ロン・グーラート
 訳:深町真理子 画:畑農照雄
96
112
家具としての女 −話題のSF映画を見て KOSEI
113
117
(連載)サイエンス・ジャーナル
 スカイラブ実験ゴー
加藤喬
118
119
SFでてくたあ 福島正実、石川喬司
120
121
SF スキャナー
 新作・新刊・新雑誌
浅倉久志
122
125
すぺーす・たいむ あんてな
 確認されたブラック・ホール、見直される観測ロケット、
 超高空へ奇妙な鳥かご?、電子で動く人工の手、
 必要になった宇宙法学
-
126
128
連作<街の博物誌>パート5
 マッシュルーム
河野典生 画:新井苑子
129
137
プロセス[PROCESS] ヴァン・ヴォクト
 訳:伊藤典夫 画:楢喜八
138
143
てれぽーと
-
144
146
連載劇画ノヴェル 新・幻魔大戦
 第四章 魔人・正雪(6)
石森章太郎、平井和正
147
162
閉ざされた水平線 田中光二 画:金森達
163
192
広告 早川書房の出版本
-
193
200
閉ざされた水平線 田中光二 画:金森達
201
232
広告 立風書房
 新しい文学的視野をひらく異色アンソロジー・シリーズ
  異形の白昼(筒井康隆編) 他
 乱歩賞作家 麻雀推理
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裏表紙内側
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 日本PTA全国協議会推進 アテナ ノンシンナーボンド
 (大切な子供たちをシンナーの害から守りましょう)
-
裏表紙
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