| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
浜田山駅から数百メートルほどの、今考えると通学にはは非常に便利な場所でしたが(部屋を出てから教室まで、ドアツードアで30分もかかりませんでした)、故郷では徒歩か自転車で行けるところしか通ったことがなかったので、毎日電車に乗って学校に通うという経験は、それだけで少しエキサイティングでもあり、けだるさを感じさせるものでした。 今月号は、当時浜田山駅前にあった小さな書店で購入したものです。一人暮らしが始まってまだ間もない頃で、新生活の準備にも追われ普段は寂しさを感じる暇もありませんでしたが、雨の降る夜などは孤独を感じることもあり、そんな時は、読書に没頭することで気を紛らすことができました。 ***************************** 今月号は「ゲリラ小説特集」と銘打って、当時流行ったニューウェーブSFが3本紹介されています。 冒頭に2ページほどの解説が付されており、3作品のテーマなどが語られているのですが、それによると、「創造性の問題」は、不条理な世界に生まれて阻害され続けている主人公が何とか社会に順応しようとして失敗し続ける物語であり、「北京交点」は、西欧と中国の文化的断絶と、万人に理解されたいという果たされない願いを抱え続ける主人公の断絶感を重ね合わせて描いたもので、「時間機械」ではセックスによる時間からの解放について考察されているのだそうです。 「創造性の問題」については、ふんふんそんな話かなーという気もするのですが、私には他の2作品からそこまで読み取ることができません。 「時間機械」は独房の中で情事の思い出に浸る話で、相当に詳細なセックスシーンが描かれているにもかかわらず全く扇情的でない辺りが、官能小説と文学作品の相違なのかと思う程度ですね。「北京交点」は主人公が中国の将軍達の間に潜入し、一人の将軍を刺し殺して逃げる話。ストーリーそのものは重要ではないということだけは分かるのですが、じゃあどういうテーマなのかというと正直よく分かりません。 ***************************** 一方、他の外国作品は一転して至極分かりやすいお話です。 「夜の翼」は月世界人とのファーストコンタクトもの。近未来ものですが、月では何億年も前に現代の地球以上の科学技術が発達していたり、火星や金星にも現地人がいたりするあたり、なんだか時代を感じさせます。そういえば、1973年頃だと太陽系諸惑星の状態がかなり知られるようになったものの、一部では未だに、火星には本当に運河があるのではないかとか、金星は高温多湿で熱帯のジャングルが生い茂っているのでは、なんてことが話題になっていました。 「砂漠のピラミッド」は砂漠もピラミッドも登場しない、現代の都市を舞台にしたお話。考古学者と、その妻である医学者が主人公で、4ヶ月の発掘旅行から帰宅した夫が妻が残した実験記録を読み進めるという形式で話が進んでいきます。おそらくタイトル(原題も同じ)は夫の職業と、妻が密かに行っていた生命に関する実験と、砂漠のような大都会とを結びつける暗喩なのでしょうが、そこまで凝らなくても・・・という気がします。 このお話、執筆当時(1950年)であれば十分にセンス・オブ・ワンダーを感じられたのでしょうが、今となってはSFネタに新鮮味がない分、凝ったストーリー展開が浮いて感じられ、単に話が読みづらくなっているだけです。もっとストレートにラブロマンス風に仕上げた方がよかったかも。 ***************************** 以上の感想で分かるように今月号の海外作品には(今の私にとって)面白く読めるものがありませんでした。一方、日本作品は3作品とも楽しむことができました。 中でもよかったのは、巻末ノヴェル「遺跡の風」。司政官シリースの1作品です。司政官制度が始まって50年以上が経過し、連邦の司政官対する絶対的な信頼感が失われつつある時代、巡察官による司政官監督がはじまった頃のお話です。 主人公は、飛び抜けて平和な惑星にいわば骨休め赴任を命ぜられた司政官。この惑星に赴任した先輩達同様、時が経つと共に安穏な日々に慣れ、花々が咲き乱れる美しい景色や、場所や風向きによってさまざまに変化する花の香りを楽しむ毎日です。そんなある日、連邦から司政官候補生の実務研修指導を命ぜられ、さらに巡察官の派遣を通告されます。ちょうど同じ頃、惑星では遙か昔に滅亡したといわれる先住民族の幽霊騒ぎが勃発。平和な惑星は一種の危機状態に陥ります。 司政官シリースの各作品はほろ苦い結末であったり、暗い結末であることが多いのですが、このお話もいわばハッピーエンドでありながら、司政官制度の終末を予感させるものがあります。 「逃げる」は、つらいことや苦しいことから免れようとインナー・スペースを逃げ回る男の話。1月号ではスペース・オペラ風の作品が掲載されたり、半村良さんが伝奇系統の作風からの少し違うものを指向されていた時期なのでしょうか? 「ネオン・ムラサキ」は、ある日、とあるサラリーマンにとりついたように舞い始めた美しい蝶。やがて全てのサラリーマンの周りを一匹ずつが飛び交うようになるのですが、秋の訪れと共に死んでいきます。いずこかに卵を産んで・・・と少しホラーっぽい結末もなかなか味があります。 ***************************** 「すぺーす・たいむ・あんてな」の冒頭には「火の気のない加熱器」つまりIH調理器が紹介されています。狭いマンション等に向いており、いずれ一般に使われる日がくると予言しています。予言成就には30年ほどかかりましたね(^_^)。 学生時代の下宿では2階の3部屋が貸し部屋になっており、共同キッチンもありましたが当然ガスコンロでした。そういえば一度ヤカンをかけたまま読書に没頭し沸騰させてしまって大家さんに注意されたこともあったっけ。今となっては懐かしい思い出です。あの頃「火の気のない加熱器」を読んで何を思ったのか、もう憶えていませんが、今月号からはじまる4年間の生活が人生で最も気楽で楽しい時代だったという思い出はいつまでも消えることがありません。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||