1973年4月号(171号)

ハヤカワSFマガジン171号表紙
(C) 早川書房
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(各号の掲載作品について、読者が1〜5点の範囲でハガキ投票を行い、平均点が高い作品を掲示していました。4点を超える作品は滅多にありませんでした。今回は1973年1月号の結果発表です。)
順位 題名 作者 得点
1 幻覚の地平線(後篇) 田中光二 3.77
2 縹渺譚 今日泊亜蘭 3.50
3 アクナル・バサックの宝 水戸宗衛 3.33
4 ポール・アンダースン 3.00
不思議です。今月号の掲載作品の殆どが面白く、中でもゼラズニイの「伝道の書に捧げる薔薇」は感性にぴったりくるし、短篇集でも読んだはずなのに、さっぱり内容を覚えていませんでした。ま、その分まっさらな気持ちで再読することが出来てお得ではあったのですが・・・

考えてみるに、この4月号が発行されたのは2月末頃のはず。(当時の大学受験スケジュールを覚えていないので間違っているかもしれませんが)試験が終わり、不安におびえながら結果発表を待っている頃だったと思います。だから、いかに大好きなSFマガジンであっても半ば上の空で目を通していたのではないかと。

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さて、今月の掲載作品は、「時の葦船」「クリスタル」「大使館」「奈落の底から」「メールシュトローム2」「冬の蠅」「伝道の書に捧げる薔薇」の7本、うち日本作品は荒巻義雄の「時の葦船」のみ。海外SF好みの私にとってはベストといえる配分です。その中の「クリスタル」と「奈落の底から」は「ソ連作家競作」という見出しで紹介されています。まずこの2つの短編から片づけましょうか。

私の中では、ソ連を含む東欧SFと聞くと、まさに「サイエンス・フィクション」でむやみに理屈っぽくて読み辛い、というイメージに直結します。「クリスタル」にも確かにそんな香りは漂っているのですが、サイエンス臭ほどほどに押さえられていて、さらっと読めるユーモアSFに仕上がっています。

どんなものを差し込んでも中を突き抜けてしまい”差し込んだ方の側に”貫通して現れる、不思議な宇宙物体「クリスタル」にまつわる軽いブラックユーモアです。この物質の発見(?)者は、自らを実験台に通り抜けてみたのですが、一見何も起きませんでした。ところが、その後・・・といった内容です。

奇人・変人が自分の体験した奇妙な話を自慢話にするいう、英米SFでも見かける構成。クラークの「白鹿亭綺談」に似た雰囲気です。

一方、「奈落の底から」は「何も存在しないところ」に迷い込んだ宇宙飛行士とコンピュータの会話によって構成される、やたら理屈っぽいお話です。「何も」存在しないから環境状況も測定できない(「環境」も存在しないので)とか、船の外に出ても危険はない(「危険」も存在しないので)とか、哲学的というには議論が浅く、不条理というほど面白くもない会話が延々と続きます。一応、最後はどんでん返しになっているのですが、それすらありきたりの結末で、ようやく読み終えてほっとしたというのが感想の全てですね。

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他の3つの海外短編の作者は、クラーク、フリッツ・ライバー、ウォルハイムと馴染みの作家ばかり。作品も最高傑作ではないにしても標準以上のできだと思います。

クラークの「メールシュトローム2」は、典型的なクラーク風「サイエンス・フィクション」です。この人は「サイエンス」の本質を理解しているというより身につけている人だと思いますね。だからこそ作品の小道具として科学技術が使われていても、さらっとつぼを押さえた記述に留めることができるのではないかと思うわけです。例えれば、作品の中で科学解説を行うのではなく、科学マジックを披露してくれているように感じます。

この作品で披露されている科学マジックの原理は全て重力の法則です。近未来、月のドーム基地で働いている主人公は地球に帰郷するにあたって、少しばかり安上がりに旅行しようと「重力発射機」による機体打ち上げを選択します。この重力発射機というのは、月面斜め上方方向に敷設された全長10マイルに及ぶレールで、旅行者を最低限度の設備を備えたカプセルに詰めてレール上で加速し、地球めがけて打ち上げるという仕組み。順調にいけばレール離脱時には月脱出速度に達し、地球到着時には大気圧による抵抗で減速されて着陸するという、燃料いらずの宇宙旅行装置です。

ところがちょっとした故障により、主人公の乗ったカプセルは月脱出速度を得ることができないまま打ち上げられてしまいます。このままでは月の引力に引かれ、数時間後には月面衝突が免れられない。非常用のロケットも故障しており使用できない。救助艇もそれまでに間に合わない。さてどうすれば主人公は助かるでしょうという、ま、これもクラークの作品によくある科学パズルですね。パズルの回答も重力法則ですし、見事なのは最後の絶体絶命のピンチを切り抜けることが出来るのも重力法則のおかげ。主人公を窮地に陥れた月の引力が、最後には主人公を救ってくれるというわけです。

なお、表題の「メールシュトローム2」は、もちろんエドガー・アラン・ポーの「メールシュトローム」を意識した命名です。

フリッツ・ライバーの「冬の蠅」は不条理劇の脚本のような作品です。登場人物は主人公(夫)と妻と5〜6歳の息子の3人。ある日、夕食が終わった後のリビングルームでの出来事を描いています。もっとも「出来事」といっても際だった事件が起きるわけではないし、夫婦喧嘩すら起きはしません。夫はソファーに座り読書を装いながら空想にふけり、妻はキャンバスに宇宙の果ての絵を描き続け、息子は空き箱をコックピットに見立てて宇宙冒険旅行を楽しむだけです。はたから見ると、就寝前の時間をてんでに楽しんでいる仲の良い家族がいて、そのうち時間になったので、父親が息子を抱き上げて宇宙からの生還を祝福するという、それだけが全ての出来事です。

なぜこれが10ページほどの小説になるかというと、主人公が空想にふけると、空想した人物(?)とその対極に位置する人物(?)が現れて(もちろん主人公以外の目には見えません)、主人公との(声を出さない)論争が始まるからです。出現するのは、黒い礼讃者と黒い嘲笑者、黒い娘と黒い老婆、黒い哲人と黒い死神の3つのペア。正直なところ作者が何をいいたいのかは良く分からないのですが、こういう内面小説も不条理小説も嫌いではない(というより好き)なので、なんとなく心惹かれる作品です。

ウォルハイムの「大使館」は、ニューヨークに住みついている火星人を捜す話。ほんのちょっとだけドタバタ風味のあるユーモアSFです。主人公の探偵は火星人捜しの依頼を受けるのですが、本当に火星人はニューヨークにいるのか?依頼人の正体は?といったところがこの作品の楽しみどころでしょう。

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「伝道の書に捧げる薔薇」は巻末ノヴェル。中編といったボリュームでしょうか。あまりにも有名な作品なので、今さら紹介するのも気が引けるのですが、滅びつつある火星人が新たな教えを受けて救いを得るという、まさに伝道の物語でもありますし、主人公の苦い恋物語でもあります。

そもそも舞台が火星である必然性は殆どなく、おそらく火星の乾いた赤砂のイメージと、物語の中で重要な小道具として使用される瑞々しい赤薔薇のイメージを対比させたかったというのが一つの理由で、花を見たことがない現地人という設定に無理のない場所が地球上には存在しなかったというのが、もう一つの理由ではないかと思います。

もっとも、この話は舞台を火星にしたからこそSFに分類できるので、これがアマゾン奥地とかサハラ砂漠であれば通常小説(純文学)になってしまいます。そうなると私が目にする機会はなかったはずなので、舞台が火星で良かったと思います。

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今月号の唯一の日本作品は「時の葦船」。白亜シリーズの最終話です。シリーズ最終話といっても、このシリーズの謎めいた背景が明らかになるわけではなく、さらに謎を増して終わったような気がするのですが、ただ、シリーズの各作品がどこかでつながりを持っているということだけは最終話で明確になります。謎解きについては読者にお任せします、といったところでしょうか?ま、いずれも夢の中の出来事のような不思議な味わいを持つ作品群でしたので、「実は・・・」なんて解説が入ってしまうとかえってぶちこわしになるかもしれません。

「時の葦船」なお、白亜シリーズ各作品の掲載号、題名、概要は下表の通りです。

# 掲載号 題名 概要
1 1972年4月 石機械 何時ともしれぬ時代の石の街「アルセロナ」を舞台にしたお話。ベッドもタンスも何から何まで石によって作られる街「アルセロナ」。遥か昔から砂を落とし続ける「砂時計」。何の動力も必要とせずに自動的に動き続ける「石機械」。そういった幻想的なもので満たされた不思議な作品です。
2 1972年6月 性炎樹の花咲く時

何時の時代、何処にあるのかも不明な都市「エロータス」を舞台にした旅立ちの物語。「エロータス」は、毎年夏になると性炎樹の花が咲き、その香りが大人を悉く性的に興奮させます。そして人々は昼となく夜となく、疲れ果てて動けなくなるまで相手を変えて性の衝動に身を任せます。

3 1972年12月 白い環 時は恐竜が出現する前の超古代。そそり立った巨大な崖の片面に、どういうわけか人間社会があり、人々は崖を穿って作り出した家に住んでいます。
4 1973年2月 噫々レムリア 海没したアトランチスから時空飛行船に乗って白亜紀に逃れたイザナミス皇女とナギのお話。
5 1973年4月 時の葦船 世界樹をかなたに望む村が舞台。長者の屋敷には誰が描いたのかも分からない不思議な壁画がある。5枚の壁画には、それぞれ、崖の垂直面に築かれた村落、樹々の生い茂った熱帯の密林、黄緑色の水の広がりの中に存在する白・緑・桃色に彩られた村、砂時計を頂いた塔を中央部に配した石の街、中央部に宝塔がそびえ立つ村が描かれている。村の羊飼いの少年は長者の娘と共に壁画を調べた夜、アトランティスの皇女についての不思議な夢を見る。

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作品以外で面白かったのは「日本SFこてん古典」と「SFスキャナー」です。日本SFこてん古典では関東大震災の1周年記念に発行されたSF(?)歌舞伎脚本が紹介されています。内容は、地震を引き起こしたナマズが地獄の宴会に招待され、大ばらだらけの自慢話を披露していると、浦島太郎達がやってきて嘘を暴いて懲らしめるという、実にたわいのないものですが、関東大震災のわずか1年後に、震災をちゃかしているようにも読めるこんな作品が、それも東京市の企画で読売新聞社から出版されているというのが驚きです。今では考えられませんよね。(念のため、こういう作品が出版されたことを非難しているのではありません。むしろその逆です。)

SFスキャナーは、旬の海外作家・作品を紹介するコーナーですが、私、ここで紹介された作品を読んだ経験が殆どありません。紹介された時点では翻訳されていないので読んでいないのは当たり前なのですが、紹介後何年たっても翻訳されない作品も多い(と思う)し、翻訳されても手に取ることなく終わるのが常です。

ところが、今月の紹介作品フィリップ・ホセ・ファーマーのリバー・ワールド・シリーズは確かに読みました。というより、シリーズ第一作「果てしなき河よ我を誘え」を見かけ、あらすじを読んだときに、「これっていつだったかSFスキャナーで紹介していた本だ!」と思いだし、さっそく購入したのでした。ちなみに、同じきっかけで購入したのは、他には真世界アンバー・シリーズぐらいだと思います。

・・・て、ちょっと待てっ。冒頭で「半ば上の空で目を通していた」なんて書いたけど、ちゃんと読んでいたじゃん、オレ!と気づいたところで雑文を書き終えることに致します。


全掲載内容
コンテンツ
作者
ページ
表紙イラストレーション 角田純男
表紙
広告 三和銀行の広告
 JCBカード
-
表紙内側
巻頭言(最近の出来事、今月号の紹介等) M・M 画:中島靖侃
1
1
目次 画:中島靖侃
2
3
(連載)サイエンス・ジャーナル
 太陽系に生命を探る
加藤喬
4
5
続・絵筆の幻視者フィンレイ
-
6
11
現代宇宙詩シリーズ 8
 未知の岸辺に[UNKNOWN SHORES]
D・M・トーマス
 訳:矢野徹
12
14
現代宇宙詩シリーズ 8
 使命[THE MISSION]
レスリー・ノリス
 訳:矢野徹
14
15
現代宇宙詩シリーズ 8
 膨張する宇宙[THE EXPANDING UNIVERSE]
ノーマン・ニコルソン
 訳:矢野徹
15
16
時の葦船 荒巻義雄 画:岩淵慶造
17
46
広告 SFマガジン・CBSソニー共同企画 SF+ジャズ
 デマ(原作:筒井康隆、編曲:佐藤允彦)
-
47
47
時の葦船 荒巻義雄 画:岩淵慶造
48
50
クリスタル セーウェル・ガンソフスキー
 訳:峰岸久 画:中島靖侃
51
59
大使館[THE EMBASSY] ドナルド・A・ウォルハイム
 訳:関口幸男 画:楢喜八
60
67
(連載コラム第27回)SFコミックスの世界
 続・スピリット ースタイルがすべてなのだ
KOSEI 画:水野良太郎
68
82
連載劇画ノヴェル 新・幻魔大戦
 第四章 魔人・正雪(2)
石森章太郎、平井和正
83
98
早川書房SF刊行満15年記念企画
 SF三大コンテスト募集!(小説、漫画・劇画、アート)
 〆切:昭和48年4月30日
 <SF小説コンテスト>
  選考委員:小松左京、星新一、筒井康隆、石川喬司、
       福島正美、森優
  賞金:第一席(十万円)、第二席(五万円)、第三席(三万円)
 <SF漫画・劇画コンテスト>
  選考委員:手塚治虫、石森章太郎、小野耕世、森優
  賞金:第一席(五万円)、第二席(三万円)、第三席(二万円)
 <SFアートコンテスト>
  選考委員:真鍋博、武部本一郎、野田宏一郎、森優
  賞金:第一席(三万円)、第二席(二万円)、第三席(一万円)
-
99
101
(連載第3回)日本SFこてん古典
 おとぎ歌舞伎とSF詩
横田順弥
102
112
特別企画大河漫画 鳥人大系
 第十二章 ミュータント(その1)
手塚治虫
113
119
SFでてくたあ 福島正実、石川喬司
120
121
SF スキャナー
 ファーマーの”リバー・ワールド”
浅倉久志
122
125
すぺーす・たいむ あんてな
 十五万年前からの便り、宇宙からの使者の謎、
 太陽圏外にも公害が、やはりナマズに関係が
-
126
128
奈落の底から エムツェフ&パルノフ
 訳:深見弾 画:斉藤和明
129
132
広告 河出書房新社
 タイム・マシンのつくり方(広瀬正)他
-
133
133
奈落の底から エムツェフ&パルノフ
 訳:深見弾 画:斉藤和明
134
136
メールシュトローム2[MAELSTROM II] アーサー・C・クラーク
 訳:石川智嗣 画:斉藤和明
137
149
冬の蠅[THE INNER CIRCLES] フリッツ・ライバー
 訳:野口幸男 画:霜月象一
150
160
てれぽーと
-
161
163
大伴昌司氏の死を悼む 小松左京、石川喬司、半村良、
星新一、筒井康隆、小野耕世、
矢野徹、福島正実、平井和正
164
171
特別掲載<SF論壇>ニューヨーカー誌より版権取得
 前進と上昇[SF ONWARD AND UPWARD WITH THE ARTS]後篇
ジェラルド・ジョナス
 訳:福島正実
172
185
伝道の書に捧げる薔薇[A ROSE FOR ECCLESIASTES] ロジャー・ゼラズニイ
 訳:峰岸久 画:金森達
186
192
広告 早川書房の出版本
-
193
200
伝道の書に捧げる薔薇[A ROSE FOR ECCLESIASTES] ロジャー・ゼラズニイ
 訳:峰岸久 画:金森達
201
232
広告 立風書房
 新しい文学的視野をひらく異色アンソロジー・シリーズ
  異形の白昼(筒井康隆編) 他
 現代の推理小説(全4巻)
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裏表紙内側
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 日本PTA全国協議会推進 アテナ ノンシンナーボンド
 (大切な子供たちをシンナーの害から守りましょう)
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裏表紙
凡例  :小説    :書評、SF関連の話題等    :投稿小説
   ■ :コミック  :SF周辺の話題(アート、音楽、映画等)
   ■ :投稿    :早川書房からのおしらせ等  ■ :広告