| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
考えてみるに、この4月号が発行されたのは2月末頃のはず。(当時の大学受験スケジュールを覚えていないので間違っているかもしれませんが)試験が終わり、不安におびえながら結果発表を待っている頃だったと思います。だから、いかに大好きなSFマガジンであっても半ば上の空で目を通していたのではないかと。 ***************************** さて、今月の掲載作品は、「時の葦船」「クリスタル」「大使館」「奈落の底から」「メールシュトローム2」「冬の蠅」「伝道の書に捧げる薔薇」の7本、うち日本作品は荒巻義雄の「時の葦船」のみ。海外SF好みの私にとってはベストといえる配分です。その中の「クリスタル」と「奈落の底から」は「ソ連作家競作」という見出しで紹介されています。まずこの2つの短編から片づけましょうか。 私の中では、ソ連を含む東欧SFと聞くと、まさに「サイエンス・フィクション」でむやみに理屈っぽくて読み辛い、というイメージに直結します。「クリスタル」にも確かにそんな香りは漂っているのですが、サイエンス臭ほどほどに押さえられていて、さらっと読めるユーモアSFに仕上がっています。 どんなものを差し込んでも中を突き抜けてしまい”差し込んだ方の側に”貫通して現れる、不思議な宇宙物体「クリスタル」にまつわる軽いブラックユーモアです。この物質の発見(?)者は、自らを実験台に通り抜けてみたのですが、一見何も起きませんでした。ところが、その後・・・といった内容です。 奇人・変人が自分の体験した奇妙な話を自慢話にするいう、英米SFでも見かける構成。クラークの「白鹿亭綺談」に似た雰囲気です。 一方、「奈落の底から」は「何も存在しないところ」に迷い込んだ宇宙飛行士とコンピュータの会話によって構成される、やたら理屈っぽいお話です。「何も」存在しないから環境状況も測定できない(「環境」も存在しないので)とか、船の外に出ても危険はない(「危険」も存在しないので)とか、哲学的というには議論が浅く、不条理というほど面白くもない会話が延々と続きます。一応、最後はどんでん返しになっているのですが、それすらありきたりの結末で、ようやく読み終えてほっとしたというのが感想の全てですね。 ***************************** 他の3つの海外短編の作者は、クラーク、フリッツ・ライバー、ウォルハイムと馴染みの作家ばかり。作品も最高傑作ではないにしても標準以上のできだと思います。 クラークの「メールシュトローム2」は、典型的なクラーク風「サイエンス・フィクション」です。この人は「サイエンス」の本質を理解しているというより身につけている人だと思いますね。だからこそ作品の小道具として科学技術が使われていても、さらっとつぼを押さえた記述に留めることができるのではないかと思うわけです。例えれば、作品の中で科学解説を行うのではなく、科学マジックを披露してくれているように感じます。 この作品で披露されている科学マジックの原理は全て重力の法則です。近未来、月のドーム基地で働いている主人公は地球に帰郷するにあたって、少しばかり安上がりに旅行しようと「重力発射機」による機体打ち上げを選択します。この重力発射機というのは、月面斜め上方方向に敷設された全長10マイルに及ぶレールで、旅行者を最低限度の設備を備えたカプセルに詰めてレール上で加速し、地球めがけて打ち上げるという仕組み。順調にいけばレール離脱時には月脱出速度に達し、地球到着時には大気圧による抵抗で減速されて着陸するという、燃料いらずの宇宙旅行装置です。 ところがちょっとした故障により、主人公の乗ったカプセルは月脱出速度を得ることができないまま打ち上げられてしまいます。このままでは月の引力に引かれ、数時間後には月面衝突が免れられない。非常用のロケットも故障しており使用できない。救助艇もそれまでに間に合わない。さてどうすれば主人公は助かるでしょうという、ま、これもクラークの作品によくある科学パズルですね。パズルの回答も重力法則ですし、見事なのは最後の絶体絶命のピンチを切り抜けることが出来るのも重力法則のおかげ。主人公を窮地に陥れた月の引力が、最後には主人公を救ってくれるというわけです。 なお、表題の「メールシュトローム2」は、もちろんエドガー・アラン・ポーの「メールシュトローム」を意識した命名です。 フリッツ・ライバーの「冬の蠅」は不条理劇の脚本のような作品です。登場人物は主人公(夫)と妻と5〜6歳の息子の3人。ある日、夕食が終わった後のリビングルームでの出来事を描いています。もっとも「出来事」といっても際だった事件が起きるわけではないし、夫婦喧嘩すら起きはしません。夫はソファーに座り読書を装いながら空想にふけり、妻はキャンバスに宇宙の果ての絵を描き続け、息子は空き箱をコックピットに見立てて宇宙冒険旅行を楽しむだけです。はたから見ると、就寝前の時間をてんでに楽しんでいる仲の良い家族がいて、そのうち時間になったので、父親が息子を抱き上げて宇宙からの生還を祝福するという、それだけが全ての出来事です。 なぜこれが10ページほどの小説になるかというと、主人公が空想にふけると、空想した人物(?)とその対極に位置する人物(?)が現れて(もちろん主人公以外の目には見えません)、主人公との(声を出さない)論争が始まるからです。出現するのは、黒い礼讃者と黒い嘲笑者、黒い娘と黒い老婆、黒い哲人と黒い死神の3つのペア。正直なところ作者が何をいいたいのかは良く分からないのですが、こういう内面小説も不条理小説も嫌いではない(というより好き)なので、なんとなく心惹かれる作品です。 ウォルハイムの「大使館」は、ニューヨークに住みついている火星人を捜す話。ほんのちょっとだけドタバタ風味のあるユーモアSFです。主人公の探偵は火星人捜しの依頼を受けるのですが、本当に火星人はニューヨークにいるのか?依頼人の正体は?といったところがこの作品の楽しみどころでしょう。 ***************************** 「伝道の書に捧げる薔薇」は巻末ノヴェル。中編といったボリュームでしょうか。あまりにも有名な作品なので、今さら紹介するのも気が引けるのですが、滅びつつある火星人が新たな教えを受けて救いを得るという、まさに伝道の物語でもありますし、主人公の苦い恋物語でもあります。 そもそも舞台が火星である必然性は殆どなく、おそらく火星の乾いた赤砂のイメージと、物語の中で重要な小道具として使用される瑞々しい赤薔薇のイメージを対比させたかったというのが一つの理由で、花を見たことがない現地人という設定に無理のない場所が地球上には存在しなかったというのが、もう一つの理由ではないかと思います。 もっとも、この話は舞台を火星にしたからこそSFに分類できるので、これがアマゾン奥地とかサハラ砂漠であれば通常小説(純文学)になってしまいます。そうなると私が目にする機会はなかったはずなので、舞台が火星で良かったと思います。 ***************************** 今月号の唯一の日本作品は「時の葦船」。白亜シリーズの最終話です。シリーズ最終話といっても、このシリーズの謎めいた背景が明らかになるわけではなく、さらに謎を増して終わったような気がするのですが、ただ、シリーズの各作品がどこかでつながりを持っているということだけは最終話で明確になります。謎解きについては読者にお任せします、といったところでしょうか?ま、いずれも夢の中の出来事のような不思議な味わいを持つ作品群でしたので、「実は・・・」なんて解説が入ってしまうとかえってぶちこわしになるかもしれません。 「時の葦船」なお、白亜シリーズ各作品の掲載号、題名、概要は下表の通りです。
***************************** 作品以外で面白かったのは「日本SFこてん古典」と「SFスキャナー」です。日本SFこてん古典では関東大震災の1周年記念に発行されたSF(?)歌舞伎脚本が紹介されています。内容は、地震を引き起こしたナマズが地獄の宴会に招待され、大ばらだらけの自慢話を披露していると、浦島太郎達がやってきて嘘を暴いて懲らしめるという、実にたわいのないものですが、関東大震災のわずか1年後に、震災をちゃかしているようにも読めるこんな作品が、それも東京市の企画で読売新聞社から出版されているというのが驚きです。今では考えられませんよね。(念のため、こういう作品が出版されたことを非難しているのではありません。むしろその逆です。) SFスキャナーは、旬の海外作家・作品を紹介するコーナーですが、私、ここで紹介された作品を読んだ経験が殆どありません。紹介された時点では翻訳されていないので読んでいないのは当たり前なのですが、紹介後何年たっても翻訳されない作品も多い(と思う)し、翻訳されても手に取ることなく終わるのが常です。 ところが、今月の紹介作品フィリップ・ホセ・ファーマーのリバー・ワールド・シリーズは確かに読みました。というより、シリーズ第一作「果てしなき河よ我を誘え」を見かけ、あらすじを読んだときに、「これっていつだったかSFスキャナーで紹介していた本だ!」と思いだし、さっそく購入したのでした。ちなみに、同じきっかけで購入したのは、他には真世界アンバー・シリーズぐらいだと思います。 ・・・て、ちょっと待てっ。冒頭で「半ば上の空で目を通していた」なんて書いたけど、ちゃんと読んでいたじゃん、オレ!と気づいたところで雑文を書き終えることに致します。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||