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もっともオリンピックに政治が影を落とすのはミュンヘン大会が初めてのことではなく、同じく人種差別政策をとる南アフリカ共和国も、東京大会以降はオリンピックから閉め出されていますし、例えば1956年のメルボルン大会でも、数カ国がスエズ動乱を理由として選手派遣を取りやめているようです。 さらに、第2次世界大戦以前にも、ソビエトの参加を認めるかどうかという議論が行われたり、第1次対戦の敗戦国であるドイツを招致しないなど、オリンピックは決して政治と無関係の大会ではなく、この問題は、オリンピックがようやく権威ある国際大会として認められ始めた第5回ストックホルム大会まで遡ることができそうです(第5回ストックホルム大会では、ハンガリー帝国の一部だったオーストリアの分離参加が問題となった)。 この問題そのものについてここで議論するだけの知識も熱意もありませんが、今となっては、ハンガリー帝国など影も形もなく、東西ドイツは合併し、ソビエトもローデシアも消滅し、南アフリカ共和国の大統領は黒人です。こんな話題の中にも時代の変遷を感じずにはいられません。 ************************************** さて、今月は前月号に引き続き、ヒューゴー賞・ネビュラ賞特集が組まれています。まずは、特集作品からご紹介。 ラファティの「つぎの岩につづく」先月号に掲載されていた「完全無欠な貴橄欖石」と似た作風の作品。5人の考古学者による調査隊が、最上部が未だ堆積されたことのないはずの未来の地層からなる「ありえない地層」を発掘するお話です。調査隊は時代を超えてつづいていく、岩に彫られたラブレターを発見し、どう解釈すべきか、頭をひねります。 調査隊についてきた若い女性(マグダリーン)の正体は何なのか? 途中から調査隊に加わった男は古代のラブレターの筆者なのか? この男とマグダリーンの間系は? マグダリーンの死には何か(形而上学的な)意味があるのか? こういったさまざまな疑問に対して、ラファティはいつものように何も回答を与えてはくれません。 彼の作品は全く意味のない戯言なのか、それとも何かを語っているのか、それは彼の作品を読んだ人自身が判断するほかないのです。 「凶運の都ランクマール」は、ラファティとは対照的に、非常に分かりやすい冒険SFで、「盗賊結社」が裏社会を支配するランクマールを舞台にした、二人の剣士による活劇です。 夜の街で偶然に出会ったこの二人は、それぞれの連れ合いである美女の願いを受けて、盗賊結社のねじろに進入し、荒くれ男たちや、結社の魔道師が召還した魔界の生き物との戦いを繰り広げます。 なかなか面白いので「ひょっとしたらシリーズになっているかも」と思って調べてみれば、何ということか「ファファード&グレイ・マウザー」という(多分)超有名なシリーズの一作でした(そういえば、このシリーズ名だけは聞いた記憶がある)。 シリーズ第1作が発表されたのが1939年のようですから、「凶運の都ランクマール」はシリーズ内の時間経過では最初(二人の出会いが書かれているので、多分そうでしょ)の作品でありながら、執筆順ではシリーズ最後付近ということになります。シリーズを締めくくるにあたって、主人公たちの出発点を記録しておきたい、そんな気持ちがあったのでしょうか? 「デス博士の島その他の物語」は、小さな村の読書好きな少年の日常を描いた掌篇です。疲れて寝室にこもりがちの母親との二人っきりの生活。少年の心の眼には、時々、大好きな小説の主人公「デス博士(マッドサイエンティスト)」が姿を現し、少年を慰めてくれます。 これといった起伏はないのですが、ゆったりしたテンポの、心にしみいる作品だと思います(ただし、個人的にはあまり好きではありませんが)。国書刊行会「未来の文学」シリーズ第2期で、この作品を含むジーン・ウルフ短篇が刊行されるようです。ご興味のある方は、そちらでご覧下さい。 ************************************** 「どんがらがん」は終末戦争後の未来社会を舞台にした、どたばたコメディSF。題名の「どんがらがん」とは古代の超兵器である大砲のことです。この時代、かつてのアメリカ合衆国は無数の農業国に分割されており、科学技術的にはヨーロッパ中世レベルでしょうか。 そんな中、「どんがらがん」を台車に乗せて各国を巡回し、「言うこと聞かないとこいつをぶっぱなすぞ!」とばかりに示威表示、食い物をタダで手に入れる一族がおります。さらに困ったことに、彼らは、長年にわたる一族間での近親結婚のためか、知能が低下し、理屈なんぞ受け付けません。主人公は旅の途中でこの一族に出会い、なんとか「どんがらがん」を手に入れて美味しい思いをしようと企てるのですが・・・ お話の途中で廃墟となった自由の女神像が描かれ、それによってここが未来社会であることが分かるという筋立てになっています。ま、猿の惑星と違って、ここが未来だろうが異世界だろうが、作品の大筋とは関係がないのですが。 ************************************** 「産霊山秘録」は一気に昭和20年代に突入。第1話で「空渡り」を行った飛稚(とびわか)が、東京大空襲のさなかに出現します。彼は時代が400年進んでも未だに戦がなくなっていないことに愕然としますが、持って生まれた特殊能力を活かし、戦災孤児達を集めて、自分たちだけの(平和な)部落を作ろうとします。そして、行き場をなくした帰国軍人達も仲間に加え、次第に勢力を増していくのですが、逆にそのために各地の暴力団との軋轢が増していきます。 平和に生きようとするがために力を必要とし、力を持ったために他の力との争いに巻き込まれるという、このシリーズを通しての矛盾に、飛稚もぶつかることになります。 ************************************** この11月号が発行されたのは、10月末頃だったでしょうか。当時ワタシは大学受験を控えておりましたが、今の時代から考えるとはるかにのんびりと過ごしていたような気がします。ま、勉強は毎日5時間ぐらいやってたけど、この季節だと、文化祭の準備だとかで、わいわい楽しく生活してたようなきがする。そんな中、世の中ではミュンヘン・オリンピックの選手村がパレスチナ・ゲリアの襲撃を受けて、イスラエルの選手が何名か亡くなったり、そんな事件が起きたりしてました。 そういえばオリンピック選手村の警備が厚くなって、それまでのオリンピックで行われていた各国選手と地元の人達とのふれあいも出来なくなったのは、ミュンヘン事件の影響でした。 例えば海外旅行を楽しめるほど豊かではないものの、社会の中にやすらぎのようなものがあった時代が終わり。こうして何かが起きるたびにだんだん世知辛くなっていく、そんな境界の時代だったような気がします。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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