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ハヤカワSFマガジン164号表紙
(C) 早川書房
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年に一度の臨時増刊号。「ハードSF」「巨弾コミック」「クトゥルー神話」と3つの特集が組まれています。
この中で一番読み応えがあったのは(残念ながら)コミック特集。藤子不二雄の精神交換もの(最後はある意味でハッピーエンド)と松本零士の「アダムとイブ」もの。
いずれも、SFとしてはさほど奇抜なストーリーではないのですが、「換身」で恋人どおしの心が入れ替わるあたりとか、「セクサロイド」では文字通りセックス用アンドロイドが登場するあたりが、この時代のコミックとしてはかなりエッチレベルが高かったと思います。今で言えば「萌え〜」といった感じでしょうか。
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日本人作家の4作品は「ハードSF」とくくられていますが、いずれも(私の)ハードSFの基準には合致しません。
「ハードSF」と銘打つからには、作品の対象ないしは背景となっている現象や事物に何らかの特異性が存在し、この特異性こそが読者の興味の中心となり、かつある程度科学的に説明付けられなければならないと思うのですが、4作品はいずれもこの基準に該当しません。
例えば「結晶星団」では、水晶結晶の12点を形作る格好に配置された12の恒星からなる特異な天体系が作品の対象になっており、作品の半ばあたりまではこの天体系の謎を探るお話かと期待させるのですが、最後は神と悪魔の2元対立話になってしまいます。
「宇宙25時」はどう考えてもインナースペースを題材にして「存在」の意味を問うている作品だとしか思えないし。「未来の翳り」はクジラ保護論者が垣間見た白昼夢にすぎないと思います。「火星人の道」も光瀬さんお得意の宇宙もので、(面白いかどうかは別にして)ハードSFではないでしょう。
てな具合で、「ハードSF特集」という言葉に、ハル・クレメントやロバート・L・フォワードのような作品を期待した私としては「がっかり」の一言でした。おまけに「未来の翳り」では主人公(日本人)が、えらくクジラ保護運動に肩入れしており、同運動への賛否はともかくとして思想啓蒙小説のようにも思われ、作品世界に没入する以前で興ざめしてしまいました。
そういえば、一時期「イルカには高い知能がある」等の議論が高まり、一般のマスコミも取り上げていた時代があったような気がするのですが、結論はどうなったのでしょうか?
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「クトゥルー神話」の方は、冒頭の解説によると、同神話シリーズを日本で初めて体系的に紹介する企画だったようです。私自身いったいどんなキッカケでクトゥルーものと出会ったのか覚えていませんでしたが、日本初なのですから多分今月号が初体験だったのでしょう。初めて読んだ時にはオカルト風で怖いお話というような印象を得た記憶がありますが、今回読み直してみると、悪霊、死霊といった超自然的な存在に対する恐怖というよりも、エイリアン等の意思疎通不能な存在に対する恐怖をベースにした作品群であることに気付きました。映画で例えるなら、オーメンではなくてヘル・ヴァンシング、あるいはインディー・ジョーンズ、はたまたファンタズムの世界に近いという感じです。
ですから、例えば今月号の作品あるいはクトゥルー世界そのものを原作として、手に汗握る面白い映画でも作れそうな気がします。作品中には「おぞましい」とか「恐怖のあまり自らの喉を切り裂く」といった恐怖表現が詰め込まれていますが、冷静に内容を読んでいくと、実際に暗闇の中怖い思いをした主人公はともかく、主人公の手記を読んだだけの作中人物が何故そこまで怖がるのか分かりません。20世紀初頭の人は現代人よりずっと繊細な神経をしていたのでしょうか?(うん、そうかもしれないな)
さて前置きが長くなりましたが、個々の作品をざっと紹介すると、「黒い石」は古代部族の祭礼場跡を訪れた主人公が夢の中で、かつてそこで行われた邪悪な儀式を垣間見るお話。「ティンダロスの犬」は麻薬を使うことで意識を過去に遡らせたところ、超過去の邪悪な生き物(ティンダロスの犬)に気付かれてしまうお話。時間には曲線的な時間と角張った時間があり、ティンダロスの犬は角張った時間の中に棲んでいるのだそうです。そこで主人公は部屋のコーナーに漆喰を塗りつけて角張ったところをなくすことでティンダロスの犬の追跡をかわそうとするのですが・・・
「曲線的な時間」と「角張った時間」というのも意味不明ですし、それが部屋の造形に関係があるというのも良く分からん話です。多分、作者自身説明できないのではないかと思います。この辺りが作品中で相対性理論について語られていてもSFではないと感じる所以でしょう。
「永劫より」は太平洋に浮かび上がった孤島(まもなく沈没)で発見されたミイラにまつわる怪奇談。謎の団体がミイラを呪文か何かで甦らせようとしたり、そうしようとして逆にミイラ化されたりするオカルティックなくだりよりも、最後に学者がミイラを調査解剖したら、ミイラの体内(脳、内臓、血流等)は正常なままに保たれていることを発見する結末の方がずっと怖いです。だって生きている人を解剖してるってことでしょ?どれだけ残酷なことかと考えると怖い上に腹立たしい。そんなこと解剖する前にちょっと調べれば分かりそうなものだろ!そう思いました。
「闇に這う者」では、主人公が廃墟となった教会を探検しているうちに超科学の所産である「悪霊製造器(私が勝手に付けた名前です)」を発見し、不注意にも作動させてしまいます。そのことが原因で街におかしな事件が起きるようになり、とある嵐の夜に事件はクライマックスを迎えます。
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以上の他、星新一さんの「八月、その戦争と平和」が掲載されています。出版日に合わせて選ばれた題材なのでしょう。8月1日から31日まで、各日毎にその日に起きた戦争と平和に関する出来事が列挙されています。例えば、「八月十五日 日本敗戦。ポツダム宣言受諾(1945、昭和20)。ポツダム宣言、第十一条。日本国はその経済の維持と・・・(以下略)。」といった具合です。
とてもSFマガジンらしい、実験的な作品であると思いますが、正直なところ面白いとは思いませんでした。
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