1971年10月臨時増刊号(152号)

ハヤカワSFマガジン152号表紙
(C) 早川書房
今月号は増刊号ということで、評論を含めて連載物は一切なし。読み切りの小説とコミックのみといった構成です。

小説の方は(多分)目玉企画として『アトランティス英雄幻想譚』特集が組まれておりますが、正直なところ、わたしゃ面白くなかった。というわけで、先ずこれを掲載順に簡単に片づけましょう。

一番バッター「ツザン・トゥーンの鏡」。魔導師ツザン・トゥーンの計略により、鏡の世界に引き込まれそうなったアトランティスの王のお話。危ういところを助けられた王ですが、『あのまま鏡の世界に入っていたらどのような世界が開けていたのか?ひょっとしたら本当に素晴らしい世界に行けたのではないか?』という重いを心に残します。ひょっとしたら、そのあたりの含蓄がこの作品のキモなのかも。

「ウリオスの復讐」は、駆け落ちの際、行きがけの駄賃とばかりにアトランティスを滅ぼしてしまった、弟子と妻を追いかける、アトランティスの超科学者と従者の追跡談。

逃亡者も追跡者も、年をとると脳移植によって若返るものだから、数千年の時を超えた逃走と追跡が続きます。どうにも感情移入できません。追われる方は確かに悪人ですが、追跡者も、野蛮人であるというだけで罪もない若者を勝手に拉致し、脳移植してしまう。倫理観という物はないのか?そんな風な腹立たしさの方が先に立ってしまい、作品に共鳴できませんでした。

邪推かもしれませんが、追跡者の方は、スウェーデン人とかスペイン人は拉致するが、英米人は犠牲者になることがありません。英米人以外はたいした人間ではないという思想があるのでしょうか?ハミルトンらしく読ませる小説ではあるのですが。なんだか不愉快な冒険SFです。

「マルグリスの死」は、恐るべき魔術師マルグリスが本当に死んだのかどうか、王と取り巻き魔術師が確かめるお話。特に内容はなく、何となく奇怪な世界の魔術の描写を楽しむ作品(かなー?良くわからん)。

「ダゴンの末裔」は、魔術師殺害を依頼された強盗の冒険談。クトゥルー神話の海の邪神ダゴンの郎党も登場します。これはごく単純な冒険小説。そういうのが好きな人は楽しめるでしょう。

最後は「タンディラの眼」。特集作品の中では、これが一番でしょうか。王に隣国の神像から宝石を盗むように命じられた、ちょっぴりユーモラスな、魔術師の冒険談です。小市民的な魔術師である主人公の性格が面白く、感情移入できました。

特集以外の作品はすべて日本人作家の書き下ろしです。まずは、小松左京氏の力作「毒蛇」から。

放射能で汚染されたベルト地帯により、長い間、文明と隔絶した砂漠地帯が舞台。食料を初めとする生活物資を補給してくれる自動機械がわずかに残っていたばかりに、生存者たちは、働かずして得ることが出来る物資をもとめ、弱いものは情け容赦なく殺される、凄惨な社会を作り上げました。男たちは幼年時代から始まる争いと殺し合いによって人工淘汰され、ごく少数のものだけが「おとな」になることができます。女たちは自分たちだけの集落を作り、定期的に欲望を満たすために襲いかかる男たちを相手にして何とか生き延びています。こういう社会で育った若者が主人公。

ちょっと「少年と犬」を思い出させますが。砂漠を舞台にしているにもかかわらず、何となくじめっとしたイメージが漂うのは、日本人作家の限界でしょうか?それでも、他のジャンルにはない、架空の徹底的に暴力的な社会が描かれています。私がSF好きだったのも、こういう作品が日本人にも描けるということが新鮮だったからかもしれません。

「宇宙飛行士たち」は宇宙開発が停滞した時代、火星で生きる宇宙飛行士たちのお話。主人公の友人は幸運にも何年ぶりかの宇宙飛行仕事にありついたのですが、やがて遭難の連絡が入ります。主人公は、遭難船を回収したい一心の宇宙船の持ち主と共に現場に向かいますが、そこで不思議な幻を見ます。光瀬さんらしく、宇宙を捨てきれない宇宙飛行士たちの疲れ切った社会が描かれております。

「やつら」は星さんn一流のショートショート。突然砂漠のまんなかにわき出た一群の人々。時間と共にその数を増していく。彼らの正体は?

「大いなる失墜」は、生まれ故郷の街に帰ってきた宇宙土木技師が主人公。増加の一途をたどる人口、不足するエネルギー・・・地球社会は宇宙開発への投資を抑え、地球再開発にあがいています。この政策転換により宇宙での仕事を失った技師K。彼は、<故郷>に帰ってきたつもりだったのですが、そこは既に、彼のかつての故郷ではありませんでした。Kは、故郷を求め、空間的には月そして木星の地表へと旅を行います。また同時に行く先々で女たちとの交わりの中に故郷を求めますが、どこに行っても完全に満たされることはありませんでした。そして、木星中心部への旅は夢だったのか、Kは再び故郷に戻り、そこで出会った少女とのセックスの中に<故郷>を探し続けるのです。これが、今月号の一押し作品だと思います。

最後は「炎と花びら」。これは司政官シリーズの最初の作品ではないでしょうか?作品の背景も、植民惑星に対する軍政が終わりつつあり、新たな統治者として司政官たちがいくつかの惑星に配備されつつある時代です。主人公の司政官は、原住民である植物人間との心の交流こそが司政を長期的に成功させるカギだと考え、ある原住民との心の交流に成功しますが、それは個人的で一時的な成功にすぎませんでした。司政官としての使命を信じつつも、本当に自分が司政できるのかについて確信を持てない、悩める初期の司政官を描いています。

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今月号は、小説よりむしろコミックの方に目を見張りました。

なんて豪華な執筆陣でしょう!「ビッグ・コミック・プレゼント」という名前にぴったりです。さらにコミックで130ページ使う文芸誌というのもすごい!

先ず「幻魔大戦(抄)」。これは少年マガジンに連載された幻魔大戦のあらすじ紹介です。実は翌月号から新幻魔大戦が始まるので、そのイントロといったところ。私、幻魔大戦を毎週楽しみに読んでいたのに、何だか中途半端なところで連載が終了し、ずっと心残りでした。ですから、この企画を見て、「ようやく続きが読める。SFマガジン購読してて良かったー」と感激したことを思い出します。

「ヒョンヒョロ」はユーモラスな見かけの割にちょっと怖いまんがです。「笑うセールスマン」に類似したブラック味です。

「夜が明けたら」は、冥土で三途の川の渡し船を待つ亡者たちの回顧談。その中の(生前の)銀行頭取は、少年の頃、両手両足の指を自ら切断してまで徴兵を拒否した平和主義者の父親を恥じ、空襲のさなかに殺害した過去を悔います。こういった所に、かつての山上たつひこらしい反戦精神などが会間見える作品です。

「海軍拳銃1851」これも松本さんらしく海軍拳銃が小道具として使われている作品。一言で言えばアダムとイブ物です。

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「世界怪奇譚」という小コラムが各作品の合間に組まれております。その題名は「復讐をとげた恨みの亡霊」「三件かけもちの金髪幽霊」「亡霊のとりついたベッド」「殺人をあばいた霊魂の音」「首つり死体の幽霊」「運転手を犯す魔の道路」「頭の禿げた白衣の女幽霊」「六百年間とりついた少女の霊」「死んだ少女の手に憑かれた」。うーん、思いっきり三面記事風ですなー。こういうタイトルに、30年前の香りを感じるのは私だけでしょうか?


全掲載内容
コンテンツ
作者
ページ
表紙イラストレーション
表紙
広告 三和銀行の広告
 JCBカード
-
表紙内側
巻頭言(最近の出来事、今月号の紹介等) M・M
1
1
目次
-
2
3
カラー・イラスト・ファンタジア SF・SL 真鍋博
4
16
毒蛇 小松左京
画:岩渕慶造
17
54
宇宙飛行士たち 光瀬龍
画:金森進
55
92
やつら 星新一
画:霜月象一
93
99
大いなる失墜 荒巻義雄
画:斉藤和明
100
144
ビッグ・コミック・プレゼント 幻魔大戦(抄) 石森章太郎
145
176
ビッグ・コミック・プレゼント ヒョンヒョロ 藤子不二雄
177
208
ビッグ・コミック・プレゼント 夜が明けたら 山上たつひこ
209
240
ビッグ・コミック・プレゼント 海軍拳銃1851 松本零士
241
272
炎と花びら 眉村卓 画:中島靖侃
273
306
特集:アトランティス英雄幻想譚 特集解説・永遠のアトランティス M・M
307
307
特集:アトランティス英雄幻想譚
 ツザン・トゥーンの鏡[THE MIRRORS OF TUZUN THUNE]
ロバート・E・ハワード
訳:岡田英明 画:金森進
308
316
特集:アトランティス英雄幻想譚
 ウリオスの復讐[THE VENGENCE OF ULIOS]
エドモンド・ハミルトン
訳:関口幸男 画:岩渕慶造
317
346
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-
347
347
特集:アトランティス英雄幻想譚
 ウリオスの復讐[THE VENGENCE OF ULIOS]
エドモンド・ハミルトン
訳:関口幸男 画:岩渕慶造
348
349
特集:アトランティス英雄幻想譚
 マルグリスの死[THE DEATH OF MALYGRIS]
クラーク・アシュトン・スミス
訳:大野二郎 画:中島靖侃
350
358
特集:アトランティス英雄幻想譚
 ダゴンの末裔[THE SPAWN OF DAGON]
ヘンリイ・カットナー
訳:団精二 画:斉藤和明
359
375
特集:アトランティス英雄幻想譚
 タンディラの眼[THE EYE OF TANDYLA]
L・スプレイグ・ディ・キャンプ
訳:船戸牧子 画:武部本一郎
376
400
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裏表紙内側
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裏表紙
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